頭の悪い人の逆転の方法

 最近テレビを見る機会が増えたため、メディア露出の作法や、楽屋落ちの作り方を観察している。テレビで爆発的に売れるためには「<キャラ>の作り方」が重要で、その「<キャラ>の作り方」は集団の中での役割やポジションを得るために振る舞うものである。ひとたびキャラが認知されたら、ギャップを見せる番組が作りやすい。お嬢様系の女優やモデルにヒッチハイクや田舎をノンアポ訪問させて泊めてもらう番組を作ったり、下品な芸人に雄大な景色が見える旅行に旅立たせ山でも登らせて景色を見ながら過去を振り返らせれば良いのである。
 テレビで多く露出したい場合の例を挙げたが、思うに、人がコミュニケーションの中で立身出世を目指す場合、そこにあるのは<頭の良さ>と<戦略のうまさ>という能力で、それらは両方持っている人は実は少ないのではないかと思う。日本には話を聞いてみれば能力の高い<一般人>がゴロゴロいて、でも彼らが月並みの給料で、特に出世もせず、よくてメディアにたまにでる程度で、独立もせず人に雇われて終わって行くのはひとえに<頭の良さ>があっても<戦略のうまさ>なるものがないからではないかと思うのだ。
 例えば芸能の世界では一昔前からおバカキャラがブームになった。当時の社会の反ゆとり的風潮(教養主義への傾倒)から、視聴者に"テレビを見ていても勉強できる"という言い訳を用意した教養番組に、おバカキャラは必要なポジションだった。そこに自頭がどうあれ必要とされる役割のキャラを作り演じることができればメディアにも視聴者にも喜ばれる。もう一つ、頭の悪い人は無害に見える、という側面もあるのだがそこは本エントリでは割愛しよう。
 おバカモデルの鈴木奈々なんかは最近ブレイクしているが、その辺りの戦略がうまいのである。番組を見ていればわかるが、どう考えても頭のいい人たちには台本に書けないような発言をするのであるが、それは多分彼女は本当にバカで、かつそれを表現できる瞬発力があるのだ。そして大事なのは、その発言の大はずれ具合に恥じないこと。自分が天然で頭が悪いのはわかっているし、それが求められているのも理解して、あえて自分の瞬発力にまかせて発言をする。普通のサラリーマンや出世しない人は間違えない答えを考える。しかしおバカキャラは間違っても美味しい、当たれば運がよいだけなので思い切り喜べばいい。そこでは何を問われるかは問題ではない、問題は答えがある問題の場合成功したらどう振るまい、失敗したらどう振るまうか、そしてプライベートを問われたらとぼけて仲間のおもしろエピソードを話す、そうした<戦略のうまさ>がNHKにまで引っ張られて活躍する理由と考えられる。オネエキャラも無害で且つ戦略的であるがどう戦略的であるかは読者で観察してほしい。
 すなわち例えば就活の面接でも、プレゼンでも、想定された問題に対して聞いた人が望む回答を一発で用意することは難しい、大事なのは相手の意にそぐわないような失敗をしたときにどうフォローするか、成功したときにどう謙虚かつ実力があるように振る舞うか、という部分である。バカでも勉強できなくても戦略がうまければ成功する、なぜか出世するバカ上司や起業家のバカ社長の多くが戦争ものや歴史物の本が好きなのは戦略に使える考え方やメタファをそこに学ぼうとするからである。決して事実を知ろうとしているのではない。
 頭の良さは学歴やテストすなわち教育経済学でいうシグナリングで知ることができるが、戦略のうまさは学校では教えてくれないし与えてくれる場合は少ない。そのため面接で簡単に見抜くことは出来ないし就職の面接なんかでは会社と学生の化かしあいになる戦略勝負だ。戦略は上記のような段取りのうまさだけではないく、人とどれだけ信頼関係を気づいて能力を読み取りながら想定通りに動いてくれるかを考えたり、本人が動けるように環境や組織を同システム化してやれるかなどが大事になってくる。すなわち人的資本論につながってゆく。
 頭の発達は諸説あるが20歳くらいで減速するが、人は訓練すれば戦略を素早く確実性が高い状態で形にすることができる。コミュニケーションがうまい人は相手がどんな話が喜ぶかを必ず話しながら観察して探してるし、話が受けなかったとき用のフォローの方法を必ず用意している。得意分野でなければ話を振るだろうし、博学に見せることもアホに振る舞って気に入ってもらうこともわざと胡散臭くブランディングすることも戦略として用意している。一度自分の頭の悪さを受け入れて戦略を練ってみることものちのち良い戦略につながるだろう。

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