これから教育したい人へ-教育実習生へ送るアドバイス その2

 前回のつづき


生徒の背景は多様

 現場に入ってコミットした後感じるのはその子供たちの個性だけでなく環境の多様さである。
 あなたは親が政治家の子供にあったことあるだろうか?親がヤクザ屋さんの子供は?親が風俗経営してる子供は?子供は皆サラリーマンの子という訳ではないし、親によって家庭の文化が全然違う。家にヤクザ屋さんが出入りしてるからかえりたくない、なんて子は学力格差が大きな地域では普通にあるし、外部の人間が「成績を上げるために学習支援!」みたいなことを言っても現実はそれ以前の問題だったりする。
 我々が意識すべきは「そういうやつもいていい。」という承認から入り、「郷に入っては郷に従え」を必要なときに行えるよう支援することである。生まれや容姿など、生まれつきでかえることが難しいもので否定されるのは、当事者にとってたまったものではないが、大人の世界ですら普通に行われているし、ある程度のあきらめを学習しながら皆成人していく現実がある。受け入れてもらえるコミュニティがある、ということをせめて教師ぐらいは示すことができるようにしたい。

生徒に惚れない

 短期的に教えにくる若い先生という存在は、学習者に取っては異質なもので、実習生はいままで経験したことないちやほや経験をすることになる。内気なセカンド童貞系男子が実習終わった後、本気で生徒を口説こうとしてどん引きされたり、理系男子が「初恋の人に似てる」といって小学生が泣いたり、結構笑えない友人たちの姿を見てきた。相手が自分に好意を抱いてくれていても、それは思春期やフロー体験による熱の延長であることを、ちゃんと引き算して考えるようにしておきたい。

3人よると嫌なやつ

 多分皆経験あるだろうが、個人ではいい子だけれど、3人よるとおちゃらけるやつがいる。2人だと対等に接してくるのにジャイアンみたいなやつがくると途端にスネ夫になってドヤってくる、といった現象がそこかしこに見られる。そういうのはたいてい関係に緊張している証拠である。教員同士の情報交換でも、生徒は誰といるときどういう顔や姿を見せる、といった具体的な形で話をする。そうした緊張感が暴走して授業を妨害することもある。
 教員やファシリテータの仕事の本懐は、場の緊張感を適度にコントロールすることにある。そのためには叱ることだけでなく、黙ることも許すことも手段としては効果的である。うまくいかないときには必ず「北風と太陽」を思い出すこと。怒る(感情の発露)と叱る(論理的なダメだし)は違うという人もいるが、それは初歩の話で、どっちにしろ強制力を用いて教師側に都合がいいように誘導しようとしている事に変わりはない。それよりも周囲の目を気にせずちゃんと能動的に自発的に学習しようとする方がよい、というのは頭に入れておこう。

怒ってもいい。ただビジョンを示すこと

 まじめに学習しない相手を、説得すれば聞いてくれると思ってはいけない。相手は集団でありリヴァイアサンである。ただ一方で、怒ったり叱ったりしてダメを言い続けても学習者は萎縮するだけである(学習性無気力)。怒り続けると面倒な先生だからと表面的に取り繕われるだけ、そういう役割の先生も必要だが、それはベテランや強面の先生の仕事。学習者との立場や年齢が近い分新しい視点や価値観を提示してあげるとよい。
 具体的には、相手の人格を否定するのでなく、どういう集団であるべきかを語る。「足を引っ張り合って成績が下がる集団と、協力して成績あげる集団とどっちがいい?」といえば、ほとんどの人が後者というし、前者と答えるようなひねくれ者は構ってほしかったり家庭環境に問題がある場合がほとんどである。メンターや指導教官にちゃんと相談して対策を考えるようにしたい。

AさせたいならBと言え (教育新書)

 同タイトルの書籍があり、僕が教育実習の際はこれを推薦書籍として提示された。今でも十分通用する原理的な本である。
 指示はぼやっと言わないこと。達成目標の目安となる具体的な数字は必須。
例えば掃除しろ、でなくゴミを30拾いましょう、といったり前を向いて、でなくへそを向けて、と言ってみたり。言葉はできるだけ少ない方がいいし、語尾一つ買えるだけでも効果が違ってくる。教育実習はそういった違いを実験できる場でもある。
 させたいことに対して時間が余ったり足りなかったり、時間はベテランでも読み間違う。時間が足りない場合は延長すればよいし、時間が余った場合にどうするかまで考えて指示を出す、といった用意が求められる。あと指示は口頭でなく板書や画用紙に書いてはったりスライドに示して常に参照できるようにしておくこと。

道具を用意していいので注意を引く方法を3つは持っておく

 これは上級者向けかもしれない。例えばベテランの先生は授業の最初に授業規律をつくる。授業の際2回手をならしたら注目するように、とか人が発言するときは最後まで聞く、とか先生が生徒の方を向いたら5秒以内に静かにする、とか人によってつくるルールは違う。このルールは3つ以上つくらないこと。先生は一人だけではないし、多すぎると混乱してよけい騒がしくなってしまう。それからルールを守るメリットもちゃんと伝える必要がある。
 ルールがあるから守るかと言われたら、守り続けるのは育ちが良い子と責められることを極端に嫌ういわゆる「まじめ系クズ」気質の学習者ぐらいである。
 注目を集めるときに言葉だけに頼りすぎないこと。なんなら踊ったり手品をしたりしても良い、ただし、その行動と学習内容を結びつけること。一日一ネタはすぐ底をつくので、乱発はしないように。