教材データベースは誰を救うんだろう

 教師がノウハウを持ち寄って問題を解決する「SENSEI NOTE」というサービスがクラウンドファンディングで目標を達成しました。いい感じにイケダハヤト先生も応援しているサービスです。まずはおめでとうございます。
 しかし、教材データベースサービスに期待する気持ちもわかるけども実は10年前からずーっとあると教育はよくなるよねって言われていくつも出来てはいくつも消えていったのよ。多分今SENSEI NOTEの想定してるサービスでは何の解決にもならないだろうしこのまま300万円を消費して消えていっても悲しいので整理してみよう。まず3つ位疑問が浮かんでくる。
 一つ目に類似のサービスとどう違うの?二つ目に有料サービスにすると言う話を聞いたけど誰がお金かけてまで利用しようと思うの?三つ目になぜそのサービスなの?と言った話だ。
 最後にこういうサービスの方が絶対需要あるからそっちのサービスをしてくれるなら嬉しい、と言うものを紹介しておく。

教材データベースサイトの功罪とこれから

 学校の先生達が孤立して悩んでると言うのは認識としておかしくないのだが、その解決策として教材データベースというのは少しずれている。なぜなら教材データベースサイトを新しく作ろうと言うプロジェクトは昔からいくつもあった。70年代からあったらしい。どんな状態かというのはこのエントリを読み終えたあと僕の過去のエントリーを読んでほしいのだが、一つだけ。実は放課後、先生同士で相談しあうようなシステムはほとんどの学校にある。しかし業務が忙しすぎる先生や時間講師の先生はその相談する時間が取れないと言うのが孤立の原因であり問題であったりする。教材データベースが業務効率化にどれだけ影響するかと言われたら非常に微弱だし、それだったら業務書類を簡単に作れるシステムや最後に書くサービスを提供した方が確実にいいのだけれど、まずはSENSEI NOTEが標榜するデータベースや交流サイトについてみていこう。
 実践共有系のデータベース、大手のサイトだと教育法則化運動TOSSランド | 明日の授業を5分で準備する指導案共有サイトがある。ここは、勉強や授業の方法は人それぞれなんだし法則化してまで学力だけ伸ばしても意味ないでしょ、という批判に何十年と晒されて来た。代表の向山氏はこれに対して、法則化(=再現性の高い授業計画)のデータベース化は最低限であり、これらのノウハウを持った上で授業を効率化させ、短縮された時間でさらに自分なりのメッセージのこもった実践を作れるようにする、教員全員がその段階に入ったらTOSSは解散する、という話をしている。
 今このサイトはボランティアで運営されている。過去に炎上したことがある。そのときの問題はある程度無審査で授業案を通し掲載してしまったことだったりする。このサイトが注目を浴びる中、「wikipedia:水からの伝言」を用いた実践が掲載されさらに批判を浴びた。それからことあるごとに法則化っていいながら再現性低い奴もあるし法則化って言葉はこの通りにしろって圧力しか産まないじゃん、というタイプの批判が寄せられている。
 それから2001年から国がやってた国立情報ナショナルセンターの教材データベースは平成23年、提供をやめてしまった。NICERトップページ:NICER 教育情報ナショナルセンター。現在はデジタル教材をメインに扱っている。
教育の情報化支援サイト
検索エンジンもある。
ページが見つかりません:国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research
 各教科書会社も教材データベースや指導案の例などを公開している。こちらは指導の成功事例を用意している訳ではないが、教科書会社は全国からエキスパートの先生方が指導書や解説書を書いて提供していたりするのでエッセンスやノウハウは詰まっているはずだ。でも若手の先生はそれすら読み取るの大変なのだけど。会社によってはエッセイやアドバイス、実践の表彰をしているところもある。メーリングリストSNSのようなサービスを提供して限定コンテンツを提供してる会社もある様子だ。
http://www.dainippon-tosho.co.jp/archive/jh_school/
http://www.dainippon-tosho.co.jp/chu/chusu/square/kokoro_top.html
帝国書院
http://www.tokyo-shoseki.co.jp/soft/index.php
http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/j-boshu/200903/kekka8/index.html
学習サイトのリンク集もある。
おすすめキッズサイト|教科書Q&A|一般社団法人教科書協会
 それから各教科のメーリングリスト。僕もいくつか登録しているが、頻繁に情報交換が行われているし、教員の実践報告を教員の個人ページに載せた、などと言った連絡も回ってくる。リンク集も至る所にあるけれど、若手は確かに発言しづらい。
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 教員向けのSNSサイトもいくつか小さいのが出来ているがいっこうに普及しない。教員の仕事は情報共有するには情報量が多すぎてネットと相性が悪かったりする。どこか研究会や勉強会に参加して、そのあとのリフレクションをする場や告知の場として活用できるものがほとんどだったりする。蛇足だが、海外ではFBを使った教育も行われているが児童がネットにアカウントを持ったために友人の母親などにいじめに遭い自殺した事例などもあると言う。なんでもSNS化してうまく行く訳ではない。
300万円達成しました! 子どもと真剣に向き合う先生を支え抜き、教育に変革を起こすWEBサービス「SENSEI NOTE」(浅谷治希 2013/03/23 投稿) - クラウドファンディング Readyfor (レディーフォー)
さくらのレンタルサーバ

 見ての通り「情報共有」も「なかまづくり」もこれだけ競合がいて、アドバンテージが「仲間づくり」とか「匿名にする」とかだとどう考えても弱い。というかFBのグループを利用した情報交換はすでに活発に行われているし僕も主催している。そのうえ教員は職業上知り得た公開できない情報が多すぎて、教材や教育実践報告は(ここではぶっちゃけます的な)クローズドに行われる会でないとあまり汎用性がない。しかもそれを参照したい教師達は別に丸ごと使うつもりはないし、エッセンスだけ取り出せればいいと思っている場合がほとんどだ。
 まさに今回の話にぴったりなのだが、東大の中原先生が教材データベースサイトに以下のような5つの神話を指摘をしている。

1.データベースさえ整備すれば、教材はおのずと集まるに違いない・・・みんな登録してくれるハズだ、という神話
2.教材が集まっている場ができれば、みんながそれをダウンロードして、カリキュラムの導入して使ってくれるに違いない、それは可能なハズだ・・・という神話
3.データベースに登録されるものは、公開を前提としているから、質はある程度保たれるはずだ、という神話
4.データベースに登録される教材はある程度の質が保たれているものなので、それが可能になればクチコミで伝わるハズだという神話
5.結局、なんだかんだ言っても、問題はデータベースやネットワークのスペックにある、という神話

なんちゃって研究者の雑感3:その教材が流通しないわけ

参考:Jun Virtual Lab. - 中原淳の仮想研究室 :
NAKAHARA-LAB.NET 東京大学 中原淳研究室 - 大人の学びを科学する: 玄関は一つでいい

 これから教材データベースサイトをつくるのなら、レスポンシブルデザインのもんのっすごい卓越したUIは最低限、その他にいくつかアドバンテージがないと効果は出ない。ましてや有料コンテンツなんて置こうものなら、その実践者の信者以外は基本的に寄り付かなくなってしまう。教材データベースを必要としている層は、ネットは下手にクリックしたらお金が取られると思ってしまう層と意外と重なる。それにノウハウ本を一冊読んだ方がネットより得るものが多いし、そもそもデータベースサイトを見る人は調べる時間がないからこそ利用するのだ。(それによく考えたら無料で公開してるサイトが沢山あるのにそう言うのを調べない人にわざわざ「知り合いがやってるいいサイトがあってさ。有料だけど」って紹介するの、なんかマルチ臭い感じがして友達無くす可能性もあるよ。。)
お金も集めてる訳だし、今更方向性を急に買えるのも難しいと思うので、問題の解決策として僕や先生達がこういうのがあるならぜひ使いたい!と思うものを書いておこう。

  • 従来の教材データベースをクロールして全部統合して人力でタグつけて公開する。

 見ての通り教材データベースは乱立しすぎている。ましてや昨今は実践報告ブログやページも実は探せば沢山ある。そう言った人達をデータベース化したり、反響がある教材制作者を呼んだ勉強会を主催するのも面白いかもしれない。

  • 教材を投稿してlike!がつく度に莫大な報酬がもらえる

 予備校の先生くらい稼げる可能性やインセンティブを用意しないとだんだん減速していく。良心だけで情報共有をやっている人達は既存のデータベースサイトでやっている。

  • メールをしたら人力で指導案コンサルや授業コンサルをしてくれる

 大学の先生達をアドバイザーとして大量に囲って実践について即座に相談が出来る環境は確かにあると嬉しい。けど批判的な先生は恐いと思う人も沢山いる。

  • 学会と協力して新しい実践や教材情報を卸す

 研究者と実践者のディスコミュニケーションは現場に出れば一番感じるところなので、学校教育と直結する学会はどんどん協力や情報が流通するようにしてほしい。

  • 失敗データベース

 よかれと思ってやったあれが悪かった、とか、あの時高対応したけど他の本にはこれが最善策と書いてあった、など成功事例以外を集めたり、先生に関する事件や判例のデータベースを整備して教師はどこまで何をしていいのかがわかるような仕組みがあると若手として非常に嬉しい。

  • 教員だけの会員制の飲食店を作る。

 実は未だに全国各地で自主勉強会は開かれている。ある程度安価で勉強会やサービスのオフ会会場として使える飲食店を作れば生徒の秘密など情報漏洩の危険性も低くなるし、そこに集まる人達同士の交流を促すようなハードとの連結を試みることができるのであれば面白い。あと行き場のない教員など毎日居座る人が出てくる可能性もあるのでその対応も考えておきたい。

  • 専門教科別の研修NPOなどのサポート

 統計的に、30−40代の教員が足りておらず、多忙化もあって若手教員が教育のノウハウを継承できない問題は僕が知る限り5年位前から指摘されている。教科によっては学校に一人の教科もあるため、こういった研修NPOを作って引退した凄腕の先生を講師として常駐させ、受けた人数分国が金を出すような仕組みをもっと全国各地に作ってほしい。今ある研修NPO、学校への外部講師派遣と、自己啓発とか仲間づくりとかばかりで専門性を自己研鑽する機会にならない。非常勤講師が激増している昨今、若手がちゃんと研修を受けられる仕組みを外部に作っていくしかない。

  • 部活のボランティア指導者や業務ボランティアの派遣事業

 部活は案外時間取られる上、いろんな事件報道で学外の人を学校にいれるのがしんどい状態になっている。また印刷や掃除指導や給食指導、小学校の昼休みの監督など、学校外の人が関わって面倒を見れる場面はかなり多いはずだ。
実績関係を積み上げたボランティア派遣を継続的に組織できるのであればそれこそ教員の孤立化を防ぐ方法としては効果が高いだろう。

 既存の教材データベースであるEDUPEDIAのスタッフ達もかかわり、統合や協力の方向に進んでいるようで、それはよい傾向だと思う。投稿内容に評価方法や、実際どれ位効果があったかなどが掲載されていないことは改善点かもしれないが、教材を投稿するサイトは若手の教員が自分の実践に対して評価をフィードバックするための仕組みとしては利用価値があるだろうし、そういう使い方をどんどん推進していってほしい。

追記

名乗りを上げてくれたデータベースがあったのでせっかくなので紹介。

http://i-conx2.com/