大人になれない大人が嫌いなあなたへ -書評-「若者論」を狙え!Electronic Publication Version

 ipad2kindleアプリを入れたため、試しにkindle版を購入。初めて見たのがこの作品でよかった。
世間にはびこる「最近の若者は〜」という俗流若者論のばかばかしさや根拠の薄さを指摘しそれがたびたび政治に居酒屋談義レベルで取り上げられることに対し「お前それ言いたいだけやん」を延々と繰り返す快作。
手軽に読めて俗流若者論の概説や細かなトピックの解説までこなしてくれるのでぜひ手に取ってほしい。

「若者論」を狙え!Electronic Publication Version
後藤和智事務所OffLine (2012-11-10)
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 本書は俗流若者論と統計学を専門にする後藤和智氏によるあんいな若者論の紹介本。著者がコミケ自費出版した「若者論を疑え」公式副読本と「若者論で使える用語集」を電子書籍用に再編集したものだと言う。これが同人誌より安い450円で読めるのは嬉しい。
1トピック5行〜1ページ程度なので読書速度が遅い人も通勤時などに読みやすい。著者の「俗流若者批判」批判はそれだけでも非常に刺激的なのだが、本書はフラットな語り口調で取っ付きやすく、さらにどんどん誤字るのでなかなか本を書いていたときの感情の起伏も計り知ることができる。
 公式でアナウンスしてる以外にも3.2「他人を許せないサル」の項で多分良心を「両親」と(これ以降もいくつか)変換ミスしていたり、3.4の「壊れる日本人」の項では「出だしの3ページが最終鬼畜全部ひらがなとカタカナの第10章」という1文。最終鬼畜というよくわからん表現が出て来てそのあとも10章について重複して説明が入るのでいい感じに混乱させてくれる。「あり」が「杏里」になっていたり、深夜のテンションで書いた感じがひしひし伝わってくるのがいい。
 基本的なスタンスは、統計推しだ。マスコミや論者による新しい若者の物語が表れたとして、それを若者全体に一般化していいのか、を統計的にちゃんと示すべきだ、と言う話を繰り返し繰り返し検証せよと彼は言う。2章では公開されている統計の在処を紹介しながら武器を調達しろと、彼は言う。
若者達は武装しろ、若者論を喝破しろ、そういう反論を求めるスタンスは面白いのだが、問題は若者自体が発する自虐的若者論だ。「俺なんてゆとりだし」「オレそういうの熱くなれない世代だからな」といったセルフハンディキャッピングと呼ばれる免罪符請求型の発言は昔から今に至るまで見られるし、それを生んだのは言葉の暴力に言葉の暴力で返して来た歴史だったのではないかと思う。
以前のエントリー然り、子どもが僕はダメだから、というのはそうじゃないよあなたはがんばればできるんだよ、と親や友達の自分への愛情を確認したいから行うことだし、大人が最近の若者はけしからん、というのは自分のことをどれだけ慕ってくれているかを確かめる踏み絵のようなものだ。若者論を発する心象は様々な段階での通過儀礼であり、だからといって他人や論拠のない批判の対象に属する集団をガッツリ傷つけて放置していい訳じゃないのでそのエネルギーをどうポジティブな方向に持っていくかの方向こそ示してもらえないと、強者の理論に強者の理論をぶつける形となる。だからといって若者が目上の人のカウンセリングまでしなきゃならないねじれた構造もばかばかしい。
強者の理論同士のぶつかり合いは、人を萎縮させるし、萎縮させないためには結局本書を手に取る人を選ぶような書き方をしなければならないしその内容はニヒリズムに偏るしかない。
若者論と言う切り口で世論に撚る批判を語ると言うこと自体が世代論からの脱却を難しくしているし、それを丁寧に読み込みながら荒っぽく書きなぐる著者を僕は好きだ。武装が完了してからでも遅くない。大人になる前に、大人が若者論を発する源となるストレスや不安はどこから来るのか、そう言ったことをもっと観察していく必要があるのではなかろうか。
 ちなみにipadkindle appの使い勝手は、きらいではないのだけれどそこまで使いやすい訳でもない。文字を拡大するのも遅いしマーカーをつけるのもやりにくい、マーカーやしおりを挟んでもしおりまで飛べる訳ではない。検索がきかない(たまたまこの本だったからかもしれないが)。購入から読むまでのスムーズさ、ストレスのなさはやはり魅力的だ。本を買いすぎて我が家の本棚が足りない状態なので、スペース不足を緩和させるためにどんどんamazon電子書籍化してappもどんどんアップデートして使いやすくなることを期待したい。