株式会社ファーストロジックの採用ページに感じる強烈な違和感

 twitterfacebookでがんがんにシェアされて来て話題になっていて、読み物としては面白いのであるけれど、調べてみると微妙な点があったので報告。関係者が見て気分を害してしまったら、ごめんなさいとしか言いようがないのだけれど、ブロガーとして、学校側の人間として、出すべき情報はだして、情報が必要な人にはそれを知った上で決断してほしい。

http://sp.rakumachi.jp/recruit/lp/
http://prtimes.jp/api/file.php?t=disp&f=d1240-211-574866-0.jpg

「学生」として就活している方を当社は一切求めていません。
お金をもらうと言うことは成果を生むプロになると言うこと。(中略)
会社はあなたの個性を求めていない。
成果のみが
あなたの価値になるのです。

http://sp.rakumachi.jp/recruit/lp/

 かわいらしいファビコンとは裏腹に、過激な文句でストロングスタイルな就活生を集める採用サイト。要約すると成長するしやりがいはあるし成果が出れば役職はあげるから、結果は出なかったけど努力したことに対する承認とか求めずに働いてくれる人だけきてくれと言うもの。強者の理論で話題を集める戦略は確かに挑戦したがりな能力の高い学生や要領の良い学生は集まるかもしれない。

 ココまではよくある話で、会社は利潤を追求する組織で、怠惰な人間など組織に取ってコストでしかないので最初から省きたいと言う意志はよくわかる。そして組織心理学の中では、最初ものすごい高いモチベーションを持っていた社員が集まったとしても、長期的にいくつかの策を講じないと必ずモチベーションは失われていくので実はこの採用活動もスタートダッシュになりはすれさほど効果が出ないと考えられるのだが、そこは置いておこう。
僕が感じた強烈な違和感は以下のこれ。

・応募資格: 2014年3月 高専・大学・大学院卒業見込みの方 ※学部・学科不問
・雇用形態: 正社員
・募集職種: 総合職、システムエンジニア
・給与: 2013年4月給与実績 初任給 月給22万円
・待遇: 昇給年2回(2月、8月)、賞与年2回(4月、10月)、交通費支給、住宅手当(通勤時間に応じて)、役職手当

http://www.j-cast.com/other/a01_prtimes/2012/11/12153579.html

 見たらわかるが、ここまで成果を強調しておいて月給制なのだ。
 コンサル会社が成果が全てと主張するのは別にかまわないし当然のことなのではあるけれど、コンサル会社の多くは基本的に年俸制が基本で(もちろん月収制の会社も沢山あるが)、成果に応じて次年度の報酬を決める。そして業界の初任給相場としては低くもないが、高くもない。昇給制ということは年功賃金制とも言える。
 コンサルに行く側も若いうちに働いて成果が出るよう全力を尽くす。お金を貯めて早期にリタイアしたり次のキャリアパスに移ったりするパターンは多い。外資などは結果がさらに早く求められるのでそれをふまえてキャリアプランを立てることになる。

なぜ月収・年功賃金制だと違和感を感じるのか。

 元々年功賃金の前提は2つだ。すなわち入社してしばらくは会社の中で社員教育を行うためと、優秀な人材に長期的に会社にコミットしてもらうためである。
 社員教育に関して、最初会社に入りたての新卒は一部の類似した活動をして来た人材以外は基本的に戦後からずーっと使えない。それを使い物にしようと日本の多くの企業は企業内研修をみっちり行って来たし学校には変なことを教えるなという圧力をかけて来たと言う都市伝説すらある。ところがこの20年、不況で社内教育予算までカットする企業が増えてきて、大学に即戦力になる学生を、などと言い出す始末である。どちらにせよ、成果報酬制と違い成果が出ない月でも給料が出ることで自己研鑽できるぞ、だけどベテランと比べて成果が出ない(最初の2年位は、と聞いたことがある)のでこれくらいの給与で我慢してもらうというシステムであると捉えることも出来る。
 長期的なコミットに関して、日本は95年にフリーターと言われる労働形式ができ爆発的に普及するまで、基本的には家族型経営と呼ばれる経営を行って来た。会社を社長を親に見立てた共同体にし、仕事に責任や誇りを持つことで親和欲求を満たし、会社の勤続年数が長い人ほど高賃金にすることで首などを恐れず長期的に安心してパフォーマンスが発揮できるように工夫して来た。実態はどうあれ少なくともそう語られて来た。ここで重要なのは、実は年を取るに連れてパフォーマンスがあがるから年収を上げているのではなく、平均年600万円分のパフォーマンスを出せる人に対し、20代は賃金として300万円、40代で600万円、50代後半で900万円と言った形で、企業が一度売り上げをストックして、それを年配になって返すと言う仕組みであると言う点だ。ある種の積み立て定期預金なのである。

 この2点をふまえて考えると、この採用サイトの主張は、専門的で親和欲求に左右されない成果だけ出すプロとして会社と契約してほしいと言う話に受け取れる。であれば某モバゲー会社のように600万〜1500万とか業績給を出せばいいのにそうはしない。
 安定を求めるなと叫びながら安定の月収制年2回昇給。しかも新入社員研修やOJTまで完備。とんだツンデレ企業である
 これだけ成果を出さない人はいらない!といいながら、社員に長期的に優しい制度を用意している会社なのである。ただし社内文化がどんなものであるかはわからない。ルール化されてなくても「新卒のくせに有給取るとかないよねー」的な空気が支配的だと気づかないうちにブラック労働に取り込まれてしまうのは、どこの会社でも同じだ。役職手当や社内表彰制度など福利厚生は整っている方だとは思うが、その認定基準次第では「やりがいの搾取」構造に陥りかねない。こういう採用広告が企業のスタンダードになってほしくない。エントリーする上で学生は弱い立場になりやすいが面接まで進めれば確認した方がいいし、会社が大きくなったときに入ってくる後輩達のためにもぜひインセンティブバランスを見極めて偏っていれば直していってほしい。

「本質を見抜く」ということが成功への最短距離と考え、その基本精神が我々をいち早く理念実現に導いてくれると信じています。
「本質を見抜く」ための最初の行為が論理的思考を行うことであると考えているため社名を「FirstLogic(最初に論理的思考)」としました。
たとえ最初に行った論理的思考結果が誤りであっても、それを軌道修正し続けていくことで より本質に近づくと考えています。

http://www.firstlogic.co.jp/about/index.html

 ブラック労働で奴隷をほしがっている広告だと言う批判をそこかしこで見かけたが、検討はずれだ。ベンチャーでブラック労働じゃない企業はもはやベンチャーではない(そしてそのトンネルを抜けなければ起業はほとんどの場合成功しない)。それでも多分能力的に優秀な学生が内定していくのだと思う。財務諸表とかいろいろ見た上で決めるのだろう。だけども彼らがどれだけ労働制度の本質を見極めた上でエントリーしてくるかはいろいろ疑問ではある。しかし自分の能力を試したい就活生はどんどん挑戦してみたらいい。これだけのプロモーションが出来る企業だ。多分かなり大変だけれど面白い。
 僕が批判したいのはこの会社ではなくこの会社の主張だけ見て「本質をついている」とか語って他人の言葉を借りて自分の中で勝手にイメージを抱いた無気力学生達に説教してカタルシスを得たいがためにシェアしてる人たちだ。日本の雇用制度は(当たり前だが経済が右肩上がりだった頃は)もっと優しかったはずだ。あと、公務員も地域や部署によっては残業とかストレスを時給換算するとコンビニ並みの待遇で定年が早いか身体壊してやめるのが早いかみたいな戦場になりつつあるので結構ぬるま湯でなれる代物では無くなったのでその辺りも付け加えておこう。