いまさらブログで書評を書きたい人のための5つのアドバイス

 大学生のころ僕の中でのアルファブロガー東大の中原先生のブログを見て、本を読んで記録することでそれがインセンティブになること、自分の思ったことをアウトソーシングしておいて後で検索した方が効率がいいこと、などを知り、本を読んだら必ず書評をつけることにした。2〜3年間でだいたい200冊くらい読むとある程度の事についてわかったような物言いはできるようになるし、語れないものには沈黙する、その沈黙の基準が見えてくる。本ブログでも書評記事自体は書き方を失敗してあまり注目されないこともいまだによくあるが、一時期はてな書評ブログ16位にまで上り詰めた実績が一応ある。簡単に普段意識していることを書きとめておきたい。
 一番大事なことは未熟であることを意識し、背伸びをすることである。未熟だからと縮こまらずに背伸びをすることで、自分が考えていた以上の文章が書けることがある。そうして出てきた文章をもう一度読みなすことで自分自身を拡張することができる、これが書評ブログの一番の効用である。

1.想定読者を決める

 ブログを始めた時はアクセスアップやブログの見やすいレイアウトや書き方に走りがちだが、そんなものは後回しでいい。大事なのは「自分が届けたい文章が自分が届けたい人に届いているか」であり、PV数が少なかろうと、その書評に想定していた読者層から物言いがつけばそれが成功である。そう、ただのコメントでなく物言いがつくことが重要で、「記事読みました、役に立ちました」はご祝儀のようなものだと思ったほうがいい。読者に葛藤を与える書評が書けてこそ本の知識が自分の身になった証である。
 想定読者層を決めると本をお勧めするかだけでなくいかに本をお勧めしないかも語ることができる。内容が重複している本は山ほどあり、Aを読むよりBを読んだ方がAの内容も抑えられるしもっと広い知見が書いてあるからお勧め、といった情報こそブログで書評を検索してくる読者たちは求めていたりするものである。

2.速読で読まない

 速読もいろんな流派があるので一概には言えないが、典型的速読法は基本的には自分が思っていることを裏付ける情報を集めるために目や脳が動いてしまう。情報収集バイアスがかかるのだ。速読では最低限3回読むこと、出来ることなら書評をする本くらいは精読を行うことをお勧めする。
 精読はどう行えばよいか、一番シンプルのなのは1センテンス、1パラグラフごとに「本当か?」と問いかけることである。またどの本にも必ず統計的事実や質的に調査した結果と、著者の主張が書いてある。これをきちんと一行ごとにり分けて読むこと、これを行うだけでもかなり本の内容を自分の中で精緻できる。統計的事実は正しくても、著者の主張が飛躍しすぎていたり、ひとつの事例を全てにあてはめて世の中を憂いたり、悲観的な主張をして話題になることで著者の仕事が増えるというポジショントークではないかといちいち疑ってかかるだけでもかなり見えてくるものが違ってくる。読み終えた後一晩から一週間置いて本の内容についていろんな考察を行うことで頭に残った内容だけを書きだすという方法もある。

3.サブタイトルを必ず考える

 キャッチコピー力とでもいうべきタイトルの付け方は重要だ。「○○はなぜ××なのか」「丸々をさせるための●つの方法」など、定番ではあるが注目を浴びるテンプレート、それから「教育」や「情報」など、ネットをしている人の目につくキーワードをうまく織り交ぜること。
 しかしこれはタイトルが人目に付く秀逸なものだからよいわけではない。大事なのはその本の内容や主張を自分の言葉で脱構築/再構成/編み直しをすることである。よく本と対話してみる、というメタファが用いられるが、それはつまり本を自分の言葉で語ってみることと同じであり、これを行うとただ読む以上に本の内容が記憶に定着する。書評を行うことの一番の意義である。

4.あなたの認知的葛藤や問題提起を明確に書く。面白い、ためになったは最初の1行しか書かない。

 「面白い」「ためになった」は、あなたにとっては真実かもしれないが読者にとってはその本を手に取ってもらうためのキャッチコピーでしかない。大事なのはその本を手にとりあなたはなにを得て、どんな違和感を覚えたかである。
 またタイトルと内容が連動しておりかつ結論が一番頭にきていることが望ましい。主張は最後でもよいが結論は最初がよい。あなたは詩を書いているのではなく書評を書いているのだから。
 そして大事なのはその本を読むことによってあなたがどんな葛藤を得たかである。従来正しいと思っていたことの嘘や限界を知り、葛藤することで新たなスタンダードや常識を再構成する、これが認知的葛藤である。ヘーゲル弁証法を出すまでもなく、”学習・勉強のための読書”の意義とは無意識な前提の破壊にある。ブログ読者があなたの葛藤を追体験することで新たな発見・考察が生まれる。書評をするのであれば、”本を読むことは、ノウハウを得ることだけではない”ということを意識すべきである。

5.テンプレートを作る

 テンプレートとは、書き方の形式などがある程度決まったひな形の事である。僕がブログを書く場合意識しているのは大学の頃輪講で学んだ内容のまとめ方である。

  1. 要約→筆者の主張
  2. 要約→使われていたデータなど
  3. 関連語句の説明
  4. 自分の意見
  5. 参考・関連データ

 というテンプレートである。ブログに書評する場合はその前に書評記事の要約を書いたり、要約をまとめたりもするが大事なのは一度テンプレートに従ってしばらく書き続け、適当なタイミングでテンプレートの規則を破って自分流にアレンジすることである。
 要約は想定読者層が知らないであろうことを書く。逆にいえば、ここに書いてあることを知らない人が自分のブログの想定読者なのだ、とあなたは暗にメッセージを発していることになる。
 データはなるべく元データにあたってリンクをしておいた方がよい。関連語句については文章中にさりげなく補足として入れておくとよい。僕個人の経験からだと、きちんと理解してもらう文章を書くためには一文に3つ以上の専門用語を入れないことが重要である。
 また関連する書評記事や本のリンクなどを張っておくことも重要で、この本とこの記事や本を読むことで足りない視点を補完でき統合できる、という推薦がどれだけできるかを読者は求めている。

 というわけで新しいことは何も書いていないが、僕の他の関連エントリーと合せて読んでいただき、ぜひあなたの書評記事を読ませていただきたい。

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