そもそも中途半端に昔の有名人のスキャンダルを映画化することこそデンジャラスなんじゃじゃないの?-メディア評-映画「危険なメソッド」

 あんまり面白くなかったのでネタバレも含めて書く。ぶっちゃけこの映画を見る1時間半でユングの入門書を読んだ方がエキサイティングだと思う。
 いまだに日本の心理学はユング信仰やらフロイト信仰が根強く、一方で若手の心理学者達からは、彼らは現代心理学の進歩を100年遅らせた、と罵られるカリスマ教祖のような存在でもある。
 深層心理学批判的な内容かと思ってみてみたらただのゴシップ映画だったので、東京ではほとんど上映は終わっている様子だけれど見に行く人は要注意。
http://blog.cinemacafe.net/dangerousmethod-movie/common/img/ttl_main.jpg
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 本作は心理学者として有名なユングがカウンセラーとして患者と不倫し、あこがれの学者フロイトと出会う話。完全に腐女子向け。偶然を信じないユングが、患者に手を出して振られ、フロイトと意気投合して振られたと言うだけのお話。もしくは主婦向けの、もしイケメン医師と不倫してアブノーマルな関係になってしまったら、位の妄想劇としてしか意味をなさないような、ドキュメンタリーとも言えない再現映画である。役者それぞれの演技はすごいし、特に精神異常者役の女優の演技は見事なのだけれど、他に見所と言えば有名な「パンッ」のシーンくらいしかない。
 時代背景を知っていればそれはそれで楽しめないでもないかもしれない。フロイトユングも、カウンセラーとして活躍したのであるが、彼らが活躍する前は精神疾患の治療は催眠療法が主流であった。彼らは催眠と言う手法と訣別して患者と会話(自由連想法)をすることで精神疾患医療の再現性を高めた。除反応のために、催眠を使わないし、使わないにもかかわらず、彼らは自己催眠や、患者ごと催眠の世界に引き込まれていくように物語は展開していく。そこまで見据えてこの作品を作った監督を絶賛するのであればわかるが、監督の過去の栄光から作品を賞賛するような薄っぺらい批評ばかりであったのは日本の映画プロモーションとして昔から気になるところである。
 有名なフロイトユングとの会話で2回意識を失うシーンはただの立ちくらみとして描かれていたし、ユングのオカルトへの没頭や引きこもりも非常にライトにしか描かれていない。見終わったあとにコメントを寄せている有名人達のメッセージを見ても苦笑いで書いた感じがにじみ出ていて、国際的な映画のコンクールに出展したこと自体もただの箔を付けるためのメソッドだったんじゃないかと思わせる位。
 ブログでの感想を検索してもそこまでいいことは書いてない。有閑マダムの危険な情事を妄想させる餌としてはよい作品かもしれない。ちなみにユングは一夫多妻を説くようになったのでこの不倫劇の「結ばれない戀」のような哀愁は一掃されることとなるし、登場するユングの妻は最終的には分析家として名を残したと言う。
 本作の評価はともかく、実際に登場した人物達は100年前に実際に存在した学者達で、(不倫相手だったけど一応)本作のヒロイン役のザビーナ自体の生涯も面白い。「私の名はザビーナ・シュピールライン」と題した彼女のドキュメンタリーもあるらしく、そちらを見てみたいのだけれど日本語訳が出る予定はなさそうだ。