汝は我、我は汝-映画評-私の男

 個人的になかなか楽しめた。本編中二階堂ふみはえんえんディープキスし続けるし脱いで妖艶な体をこれでもかと魅せるしがんがんもまれるし、なぞのスプラッタ表現がでてきたり、浅野忠信がまじめキャラの高良健吾を脱がして肌をなめる謎のBL展開があったりと、無駄に刺激的で隣りのカップルは映画のエンドロールで早々に帰っていったので、そこそこリテラシーが必要な映画かもしれない。本エントリを書いてる今でもあてられた感が抜けない。丸の内TOEIで見てきたが、一階の映画館は地下鉄の音が響くのでいまいち。ただの背徳映画としてみるといまいちだけれども、人が何にすがるかが、誇張してよく描かれていた。
[http://watashi-no-otoko.com/:title=http://watashi-no-otoko.com/introduction/images/mainvisual.png]

 本作「私の男」は桜庭一樹氏による直木賞受賞作品を映画化したもの。作者は元ライトノベル作家で、モスクワ国際映画祭でも最優秀作品賞を受賞するなど、なかなかキョーレツな作品となっている。
あらすじは、震災津波孤児の花(二階堂ふみ)が親戚の浅野忠信に引き取られたはいいけどガッツり性的な関係を結んでしまう。
 ただ表層だけをなぞるのであればこのドラマはインモラルな恋愛や欲望を描いただけとなるが、この作品は自己愛の物語ではないかという見方をしていた。所々出てくる殺人も、自分を愛する主題のための飾り付けにすぎない。

心理的欠損モデルと恋愛

 作中、浅野忠信は終止「家族になりたい」と抽象的な台詞を繰り返す。そして娘役の二階堂ふみは同時に配偶者の役割もしながら「わたしには(浅野のことが)わかるの」を繰り返す(そして終わりにいくにつれてその台詞がどう変わるかも注目なのだけれど)。
 物語の最初のほうですでに二人とも親から孤立し、身寄りが無い状態であることが示され、その共通点からお互いに漠然と足りないものを埋めようとする。ゼロ年代以降の食事をすることが家族であることの象徴のように描かれてきたが、彼らは会食をするときも二人で孤立するし、恋人がいてもお互いを特別な存在だとして認め合おうとし続ける。血縁や地縁、そういったレガシーなネットワーク自体が、彼らに恒常的不足感・欠損感を与え、強化し、焦燥感を与え、結果、作中ではそれを埋めようとして二人はより親密になろうとする。愛情表現のために人も殺すし愛情表現のためにもらったアクセサリーを飴のようになめ続ける。
 次第にその光景が、ある種のペルソナに見えてくる。もう一人の自分を召還して、自分を一生懸命愛する。他人に自分に似ているところを見つけて、それを愛する。そうしてペルソナを使った自己充足と、充足感への渇望を強化し続ける。もしかして自分を愛する二階堂ふみは存在しない(もしくは妄想の中の)妖精のようなものではないのだろうか、そう解釈しても前半は物語が成立してしまう。後半はむしろ夢オチのようにそうあってほしいと思ってしまった。
 こうした自己投影型の恋愛は若者たちに恋愛一般がこういうものであるというロールモデルとしてバブル崩壊後から共有されてきた。共依存型恋愛や、命かけて俺がお前を守る的なかけがえの無いあなた論は、自分を愛してくれる自分と似た人愛する、という形式のドラマに埋め込まれ、ひっそりと自己投影という心理戦が息をひそめて行われてきた。そういった自己投影型の恋愛は、ある日突然相手に"自分(が持っている性質)と同じような"嫌いなところを見つけ、そこをお互いに責め合うことで終わっていく。
 自己が満たされていると意識的あるいは無意識的に自己肯定感のある若者たちは、とたんに恋愛が不必要なものに映ってしまい虚無感にさいなまれる。
その相互自己投影が家族という絆の中で行われその過激なところがこうして映画として描かれてしまった、故に不幸であるし、同時に自己愛に満たされた不思議と幸せそうな二人やその愛の営みを2時間ずーっと見続けることとなる。


 作品が始まってすぐ、最初はすごい昭和っぽい映像の作り方をしていると思ったのであるが、時代背景として設定してあるのか携帯電話が出て来ないことが物語を加速させないようにできている。またカメラはしょっちゅう小刻みにぶれるし、二人の出会いのシーンを描いた前振りの長さや登場した老婆の意味不明さなどはマイナスポイントだったし、しきりに「感情が人を狂わせるんだ」と叫ぶ老人の言葉の重さなどは見ていくほどに、そしてきっと見返すたびに重く重く作品全体を象徴する言葉になっていくだろう。
 作中の浅野忠信オイディプスにはなれない。親離れ子離れせず、娘を自己の延長にしてしまった。そんな不幸な映画であった。ただの光源氏計画や自己憐憫描写だけでなく、愛情が一周回って嫌いになる描写まであれば僕の中では名作であった。

私の男 (文春文庫)
私の男 (文春文庫)
posted with amazlet at 14.07.28
桜庭 一樹
文藝春秋
売り上げランキング: 1,012
二階堂ふみフォトブック 進級できるかな。
二階堂 ふみ
講談社
売り上げランキング: 138,416