BBA達はいかにセックスアンドザシティを楽しみ炎上を解釈したのか -メディア評- 映画「ハンナ・アーレント」

 年末に岩波ホールで鑑賞。チケット入手に40分強並び、これで内容が酷かったらおこだよ!と思ってたけれど、案外よかった。
http://www.cetera.co.jp/h_arendt/images/intro/text01.jpg

 本作は、哲学者であり活動家であった50歳のハンナ・アーレントの執筆と反響と過去を描いた作品。開始15分はひたすらジジババが知識層とホームパーティを繰り広げ、ハンナも旦那も別の男だの女だのとキャッキャウフフするリア充な描写が続く。けだるそうにひたすらタバコを吸い続けながら執筆と哲学に明け暮れた荒んだ(それでいて輝かしい)描写が連続する。風立ちぬの6倍くらい吸ってたのでマジで規制が必要なレベル。
 本作のストーリーの核となるのが、ヒトラー政権下で大虐殺を指揮したアイヒマンの裁判を大学教授であるハンナが傍聴し、その記録と考察をニューヨークタイムスに載せ、世間から批難を浴びると言うところ。ハンナは、この虐殺は彼が極悪な思想を持っていたから起きたんじゃなくて、彼は凡庸であろうとした末、全体主義が作り出したのだと執筆し、それが世間にはアイヒマンを擁護したものだと受け取られた。これにどう反論するかは作品を見てのお楽しみなのだけれど、その反論が行われる最後の15分の講義は非常にしびれる見せ場となっている。背景を補足をしておくが、ヒトラーの右上にヒムラーという参謀がいて、ヒムラーが虐殺を禁止しても高官であるアイヒマンはやめなかったそうだ。
 我々ブロガーなら共感するかもしれないが、彼女は最後の15分にこんな台詞を言う。「『理解』と『赦し』は違う。」。赦せないし繰り返しては行けないからこそ、なぜこの歴史に残る犯罪が起きてしまったかを理解し考察しなければいけない、と、彼女は自身が迫害にあったユダヤ人であったにもかかわらず、ストイックにその解釈を追求をした。所々悲しんだりハイデッガー(本作ではポエトでロリコンの変態だとしか思えない)との過去を思い出したり、人間的な描写を幾重にも織り込むことで、彼女が冷徹な人間ではないことを強調していた。
 気になったのは、翻訳の上で、彼女やハイデッガーの台詞には<>がついていなかった。<存在>すらもただの「存在」として表記されており、これは多分翻訳家の教養の問題に落ち着くのだろうか。
 少なからず頻繁に社会的ステータスが高い人達とホームパーティしたり「キスは私だけにしてね」などラブラブで尊敬しあえる夫婦関係を維持していたり、50代の夫婦のかっこいい生き方を描き出した部分が訴求力として、ニュースになり列をなすまで話題になったのかもしれない。しかし2人で見に来て夫の方が寝ている夫婦を僕の周りだけで2組は見た。
岩波に並ばずとも現在も東京、関東と地方でも放映はされているそうだ。公式webページにはその情報が掲載されておらずチケットを買う5分前にそれを知り激しく萎えたのだが、そんな萎えも吹き飛ばす、思考と人間関係描写が程よいバランスの映画であった。
なお、帰りに神保町の古本屋にいくつか寄ってみたら、ハンナアーレントの本が品薄だった。

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