献本御礼。著書の中にある通りどれだけアクロバティックな新書論が展開されるのかと思いきや、予想を裏切るほどのタイトル通りのダメ本!! しかしこれも著者小飼氏の計算通りであり、それを踏まえてでもあなたは本書を買わなければならない。著者がそう主張するからだ。
私はダメ本をズバズバ斬り、ダメ本を読む体験自体は貴重だと序章でも述べました。あなたがダメ本を読みながらツイッターにつぶやいている時、「自分だったらこう書くのに」と考え始めるかもしれません。
そこそこ普通の本よりも強烈にダメな本の方が、あなたの心に強烈な印象を残し、結果的により多くのことを考えさせてくれます。
人間は普通の教師より、反面教師から多くのことを学べるものです。
本書の一番の売りは後半である。本の後半は新書のレーベルごとざっくりと傾向やお勧め本ダメ本のレビューがはいり、非常に鳥瞰的に新書のセカイが見て取れる。これから本を読み始めようと思う人、もしくは生協に通う習慣のある大学生はぜひ手にとって読んでいただきたい一冊。
新書で「痺れる」読書体験を!
要約
本書がなぜダメ本かを要約を説明しておこう。前半100ページ弱の分である。まずベスト新書から「新書がベスト」というタイトルでハードルを上げて出すからには何かしらアクロバティックなひねりがあると思いきや、本書の中ではストレートに何故著者が新書が好きかが書いてあるだけである。論旨をまとめると以下。
- 本を読まないと生き残れない世界になっている。
- 新書は大きさからしてかさばらない。だから新書を買え
- 初心者は新書用の本棚から買え。そして話題になるよう家に人が来た時に見えるところに置け。
- ハードカバーはモノとしての本がほしい人向け。人気のある本は新書・文庫サイズで売られる。だから新書がいい。
- はずれもあるが安いからダメージは少ない
- ひとまず300冊買え。買ったらその中から10冊読み切れ。薄型テレビ買うくらいなら買え。テレビ見なくなるというメリットもできる。
- タイトルは短いほどいい。だけど品格本や似非科学本みたいにたまにトンデモがある。特に品格本には理が尽くされてない。
- 長いタイトルの本にもたまに良著がある。
- 読まないなら読まなければいい、一生搾取されるだけだから。
と、初っ端から数字も出さず延々と自分が読書家であることを担保に持論を述べ続け、その内容も疑問だらけである。最初に読んだ時ゴーストライターが書いていたかと思ったほどに、いつもの著者のキレ味や根拠と言うものがなく、独断と偏見に満ち溢れている。
良く読んで考えてみると、新書を300冊買えば、購入者がそれを読もうと読むまいと、新書の著者たちが儲けるだけのポジショントークになり下がっており、この手の本はそれを差し引いてなにが残るかこそが重要である。
dankogaiの楽しみ方
なにが残念か、著者弾小飼氏のブログの読者にはおなじみだろうが、彼の一番の醍醐味はウィットに富んだ小気味よいメタファである。それが本書にはほとんどでてこない。それこそ正しいかどうかは別として、本書にも出てくる「衝突断面積」のような、彼が発する一見説得力のある例え、暗喩たちこそ読者の求めているものであり、そんな著者のバックボーンを知っていて本書を読みたいと思う層がどれだけいるかと言われれば疑問である。
また、茂木健一郎氏の脱税ネタや事業仕分けネタや電子書籍の今後など、著者は本書を10年後に手に取って読んでもらうことを放棄した時事的な記述を盛り込んでいる。新書をすでにストックでなくフローなモノに仕立て上げようとしているがこれは電子書籍化を見込んでの内容なのだろうか。僕が読んで感じたのはその読書量に裏打ちされた「耐えられない軽さ」であり、本を読むことで得られるものが思考でなく教養であることに対する違和感であった。
なにより目的が健康的でなく、本を読み続けないと置いてけぼりにされるから本を読め、これはある意味正しいが、それだけが選択肢でない事、本を読んで得られるのは教養知識だけであり、それらをどう構造化するかや、どう解釈し仕事に使うかには多少の訓練が必要であることなど、示唆をしなければいけない。
誰にとって新書はベストか?
新書はベストかと言う問いは、誰が判断するのか、そして現時点でほかにどんな選択肢があるかを提示しないと成立しないし比較しようがない。またべき論は書いてあるもののその根拠はほとんどなく、それこそ品格本同様「理を尽くせ」と言われても仕方ないくらいだと感じた。しかし著作の中で著者は「新書の良いところは著者の独断と偏見に満ちたところである」という。これはつまり右に偏った独断と偏見の本、左に偏った独断と偏見の本を多様に読み自分のバランスを見極める、と言った読書スタイルが前提になっており、生兵法はけがの元である。乱読の良さ悪さをもっと示してちょうどよいくらいだと思ったが、著者がどのように感じているかなどはツイッターで見ながら考えてほしい。
読書スタイルには乱読と精読とがある。方法は文字通りなので察していただきたいが、目的によってはペーパーバックの海外の翻訳本を精読したほうが得るものが大きい事は多々ある。著者も(テレビは見ない方がいいといいながら)見ているディスカバリーチャンネルなどのコンテンツを集中してみた方が良い事もある。
語弊は多々あることを承知で言うが、あくまで乱読の読書スタイルとの組み合わせることを前提に、新書がベストであるという主張を理解しなければならない。
その主張を踏まえたうえで、後半の「レーベルメッタ斬り」は非常に有用である。短いセンテンス、小気味よい批評のオンパレードで、たださっきも言ったようにメタファ少なめの引用多めなので、好き嫌いが分かれるところだろう。それら様々な前提条件を踏まえて新書を選ぶかどうか、ペーパーバックやハードカバーを選ぶか、どんな興味を持ち、どんな著者のどんな本を読むか、軽い気持ちで選択することだ。いろんな情報を集めてあなたが選んだ本が新書であれば、その時に置いて新書がベストであることは確かなのだから。
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