twitterは個人をクラブ化するのか

僕のtwilogによるとtwitterを使い始めてちょうど3年になるらしいので3年間で見てきたTLから想った事を少し。

 一カ月以上前であるが、ディスコとクラブカルチャーに関する論文を読んでいたら、twitterとの類似性をいろいろ発見したので書き記しておこうと思う。論文は以下
踊り場における「恥じらい」のコミュニケーション 佐藤 生実(PDF)

 それをまとめたつぶやきは以下。

ディスコとクラブカルチャーについての論文を読んでるけど、ツイッターが用意した空間って非常にクラブ的。恥じらいながらも自分をさらし、秘密の共有が信頼や連帯感をうみ、お互いフォローして相手を気にしながらも儀礼的無関心を装い、祝祭が溢れかえり、選択的な「ハレ」が用意される

しょーごᒼᑋªⁿ☆* (@showgo) | Twitter

ディスコとクラブ

 論文ではディスコとクラブがどうちがうのか、とりあえずクラブに通う若者って言うと柄悪いって印象があるからって批判されるよねという問題設定から始まる。
 バブルのあたりにジュリアナというムーブメントがあり注目されていたディスコだが、一時は急速に熱が冷めていったもののいまだにその空間に対する需要は衰えていない。最近では親子で楽しむディスコというコンセプトで、こけても痛くないフロアや明るいうちから楽しめるイベントが用意されている(参考:Baby Loves Disco JAPAN – real music, real dancing
 ディスコという空間は何か。論文にのっとれば同じ行為を共有し一体感を楽しむ事を目的とした空間である。

ちなみにパラパラなどのダンスとはまた別の(そして隣接した)質のダンスです。ディスコダンスやゴーゴーダンス、ピンクレディーなどに起源を欲するアイドルダンスなどアートでない大衆向けのものはダンスの「コミュニティ性」と言う視点から語り直せば出てきます。

http://gijutu.blog.drecom.jp/archive/222

と指摘した通り、一体感を楽しむ文化はディスコカルチャーであり、ディスコは「皆と一緒」を体験する空間(コミュニティ空間や共有地)として機能してきた空間である。*1

 一方でクラブは、ディスコが「大衆化」「商業化」「ボディコン化」していく中、それとは違う楽しみ方をしたい人たちが個人が個人として自由に楽しむ空間であり、音楽を楽しむ人、お酒を飲む人、ダンスを楽しむ人など、それぞれが「皆と違う」楽しみ方をし、お互いがばらばらの個人である、という特殊な一体感を共有する空間である。

 この時代的な流れを含めたディスコとクラブの違いは、それぞれがマイペースで使っていたメディア(ここではウェブサイト)に対し、ソーシャルブックマークのようなポータルサイトmiximixiニュースのような意見集約システムが整備された「サイトのつながる化」の結果、ブログ疲れ、mixi疲れのが発生し、のちにtwitterに移行するというストーリーと類似するのではないか。

twitter上の儀礼的無関心

 非常に面白かったのが、クラブでは、例えばすぐ近くで踊っている人を見ているが知らない振りをする儀礼的無関心を装うのがスタンダードなふるまいであるという視点。twitter上ではユーザそれぞれが微分的にその時の心理を文字を媒体に表現する。twitterでのつぶやきは、ログは残るものの情報量が膨大でかつ時間がたてば発言が風化する。検索されても本人にわからないから、みな恥じらいながらも排泄のように言葉をつぶやき続ける。以前「ブログは思考の整理ツールだがツイッターミニブログ)は思考の生理ツールだ」と象徴したことがある位みな一期一会的に言葉を発し続ける。自分が発した言葉に対して反応してほしい人ほど他人にリプライを送るし、自分なりのペースで楽しみたい人はTL上のフォロワーの発言を見ながら自分なりに納得してまたリプライせず感じた事をつぶやく。ブログのように推敲され反応まで予想されて公開されたものではない発言の方が多く、少なくとも僕はTL上でそんな現象を見てきた。今まで商売で発言をしている人以外、タブーとされてきたネット上の実名顔出しが容易に行われるようになった事は非常に興味深い。(mixiではクローズドなメディアということで一時期顔を出す人も増えたが、利用者が増えるにつれて閉鎖性が失われ顔を出さない傾向が見て取れた。)

 またtwitterの使い方は人それぞれ、という言葉が示す通り儀礼的無関心をよそわずリプライで多くの人と交流を深めたり、積極的に人とのつながりを求める人も多く、オフ会を加速させたのもtwitterの特徴であると方々で言われている。この現象がさすものは、秘密の共有ではないかと思うのだ。ツイッター上での発言のほとんどは検索に反映されず、googleでも非常に局所的な表示しかされない。twitterクライアント等発言をストックするソフトを利用しない限りTL上での発言はその人のフォロワーがタイミングが合わないと読めない非常にクローズドなモノとなる。自分が興味ある分野について発言をする人であれば積極的に読み拾うであろうし、利用時間帯が類似していればその人の発言を多々読み拾う、微分された発言からその人物像を積分的に類推することができる。その結果連帯感や親近感がわきやすく、自分の琴線に触れた発言をした時、リプライやRT、QTや公式RTなどを使いながら交流を加速させるのだ。

ハレの選択可能性

 日本にはハレとケの文化があり、ハレは非日常、ケは日常を指す。
 クラブに行く目的はさまざまであり、またクラブイベントの内容も多様である。DJがただ音楽をかけるだけのものもあれば、ライブ、ショーを行うもの、ファッションショーやヘアカットショーを行うもの、レクリエーションを用意し出会いを目的としたものまで、音楽とお酒がある、という共通点以外は非常にバリエーションが増えている。イベントの中でも盛り上がる時間とそれぞれが自由な時間が用意されており、好きなタイミングで祭りのような一体感を感じ、好きなタイミングで個人を感じる事ができるという特徴がある。これを論文中では選択的な祝祭と表記しており、これに非常にうなづいた。クラブは非日常的空間であり、自分のペースで非日常にアクセスする事が可能である。

 これは別にtwitterだけの特徴ではなく、2chのような大規模の話題別掲示板、それからソーシャルブックマークの発達によりウェブサイトも同様のムーブメントが起きたと考える。面白いサイトやニュースなどの情報があれば誰かがそれを持ち寄り祭りをオーガナイズする2chに対し、そういう祭りを数字という目に見える形で可視化したソーシャルブックマーク。参加するのもしないのも自由であるし、一方でtwitterが決定的に減らしたものはその情報へたどり着くまでのクリック数である。これにより祝祭の乱立および祝祭の選択可能性が一気に広がった。
 仕様としてフォロー数を自分で制御しそこに流れてくる発言の規模や質をある程度選択できる事。気にいった発言はfavやRTによる紹介ができること。それからtwitterというツールを通して特徴的なモノと言えば、ワンクリックで自分がどういう存在かを表してくれる占いタイプのウェブサービス。これが代表的なムーブメントとなり時にtwitter上のTLを侵食していく体験は多くの人が経験しているのではないだろうか。またニュース速報やデマの伝達の速さ等も特徴としてあげられる。いちいちニュースサイトにアクセスせずともその要点がTL上に自動で表示され、気になるニュースがあればアクセス、コメント、RTによる告知協力などが可能である。誰もがメディアとなり、小さな祝祭を作り上げ、それに選択的にアクセスすることを容易にした。twitterのTLは誰ひとりとして同じものが存在せず、自分のフォローしているユーザが観測しない祝祭も、twitter上のどこかで多発している可能性があるのだ。

 さて、twitterドラマが始まったが、そういう視点で見るとどうだろう。僕は1話も見ていないしTL上の実況も全く持って追いかけなかったが、いくつかあらすじ解説記事を見る限り、彼らはオフ会を行いそれぞれの一番重要な部分に対しては儀礼的無関心を装い個々で秘密を共有し、様々なイベントへと選択的にアクセスしていく(これは予想というかそうでなければドラマとして成り立たないが)。別にtwitterを使っているからそういう振る舞いをするのでなく、個人の振る舞いがクラブかしている事が、twitterという構造と照らし合わせてみるとはっきりと見えてくるのではないか、そういう話である。
このへんの考察についてはまた別の機会に行うが、twitterの革命性というのは個人の行動の変化にようやくwebツールが追いついた結果ではないかと思うのだ。

関連エントリ

http://gijutu.blog.drecom.jp/archive/222
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*1:ヲタ芸などもある意味でディスコカルチャーか