若者の法則が面白い-書評-若者の法則

香山リカ氏のちょっとしたエッセイ集なのだけども中身が異常に面白かった。ブックオフで105円で買ったが1000円くらいの価値があるかもしれない。2002年の本なのだが今読んでも面白いのだ。


本書は精神医学者香山リカ氏のちょっとしたエッセイ・コラム集。

1項目4ページ程度で「お金」「先生」「親」「仕事」「デート」「ダイエット」など、若者がどんな傾向があるか、思考のプロセスを簡単に解説してくれる。最近の若者は、と言う前に読むべき本なのだが、これ、若者が手にとっても面白い。若者がこんなステレオタイプに説明できるわけないので、あまり内容の妥当性を追及すべきではないのだが傾向として見てとると本書以上に納得できる一冊をまだ僕は読んでいない。
中身を簡単に紹介するとこんな感じ

子供

 ある調査機関が行ったアンケートによると、新成人の七割が「自分は子ども」と答えたとか。そのアンケートでは「経済的に自立していないから」というのがいちばんの理由だったらしいが、私の知人の中には、高額納税者リストに名前をつらねるほどの成功を収めながら「私は子ども」と公言している人もいるし、三人のわが子を育てながら「私もまだまだ子供なのよね」と言っている人もいる。よく言われるように「年齢的には大人になっているのにない面が未熟な人間が増えているのだ」とばかり決めつけることはできないと思う。(中略)「子ども」宣言をしている人を観察すると、まず気付くのはとにかくこだわりがないこと。「私は親だから」「社長だから」と、自分の立場を振り返って何かを我慢するという場面を見たことがない。(中略)自分を手かせ足かせで縛ることなく、興味や関心の赴くままに行動する。これがいまどきの「子ども」の基本のようだ。

と、一元的な若者批判をけん制したあと、思考のプロセス、定義の振り返り、その問題点を端的に指摘していく。コロンブスの卵みたいなもので、言われてみれば当たり前じゃんと言う程度の単純なことなのだが、これを思いつくのはそれなりの経験の蓄積がなければ難しい。

書き方として文章が短いので読みやすいし著者自身の経験から発せられる言葉も多く、自分も含めた現代人の思考のプロセスがよくわかる。
著者自身基本的に現代人はみんな病んでてかい離障害とか躁うつ病になりやすいというベースで話を進めているのでその点は賛否両論あるだろうが、一つ一つの論点視点の切り替えは見事なのだ。

お金

 一番おもしろかったのがこの話。

 要約すると、精神科医である香山氏のもとに来た大人の患者は「薬を処方しない日」にお金を取られると腹を立てるのだという。医療行為は善意であり善意にお金は払いたくない、お金を払わないことで自分に対して仕事でなく善意で向かい合ってると信じたいのだという。よって逆説的に「お金は汚い」という意識がある。

 一方で若者は「お金は汚い」という意識はない。お金は大切、お金はある方が良いというお金肯定主義があり、しかしながらその反面、お金を儲けたいとか思ってはいても行動には結び付かないという。

 そして彼らを動かすのは実はお金ではなく「自分しかできない」という意識なのではないかと著者はいう。

フリーマーケットに出品して「今日は三万円ももうかった」などと喜んでいる若者もいるが、彼らにしてもお金そのものが嬉しいというよりは、そこで一日を過ごした自分がそれだけの成果をあげ、はっきりした数字で評価されたことを喜んでいるのだと思う。そのことを一番わかりやすく表現するのが、「三万円もうかった」と言う言い方だから、そうしてるだけなのだ。

 つまり、自分の価値や自分の労働の価値の評価単位がお金を使うと便利になった、くらいの感覚なのだという。これが行き過ぎると風俗産業に身を投じる女性が出てくる、などと注意点も示しつつ著者は

「えー、大学の先生の給料ってそんなに安いのですか」というフレーズが「先生にはもうちょっと価値があるはずですよ」と言うようにも聞こえてくる気がする。

と、大人から見た若者を肯定しなおす視点を示している。

 だが一方で現代の若者たちは評価軸がお金に偏りすぎている気がしないでもない。
僕も学生の頃は給料日前のお金がないときに躁鬱の傾向があった。非常に落ち込んだり非常にテンションが上がりお金を衝動的に使ってしまったり。

 今となってはお金と言うものが暗に「あなたはそこにいていいですよ」「お金があるならこのコミュニティにきてもいいですよ」という免罪符や通行証のようになっていた気がするのだ。生まれた時からお金があり、お金を稼ぐことがステータスでありテレビでは連日その人のスキルがどのくらいすごいのかを示すために年収が示される。

 いつしかフリーターなど生産力が低いわけでもないのに低賃金の人たちは、お金がないと社会に虐げられている気になってくる。そしてうつ病などの精神疾患に陥るか開き直るしかなくなってくる。構造的な欠陥が人の精神を蝕んでいるような気にさえ思えてくる。

 人によっては実感のわかない記述ばかりだろう。認識の半径が違えばそれは当たり前だ。
 ただ、若者を取り巻く問題があるとすればそれは大半が若者と大人のディスコミュニケーションが問題であって、お互いがお互いに原因を求めても解決しない。少しでも歩み寄ろうとしない限り教育基本法が改正されるような本質を外した手段が取られて混乱を招くだけだし、著者がこの手の「若者を理解しようとする姿勢」を後押しするような本を書き連ねていくこと自体は応援していきたい。

若者の法則 (岩波新書)
香山 リカ
岩波書店
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おすすめ度の平均: 3.5
3 最近の若いモノは・・・
3 すでに現実とずれている
1 取るに足らないことばかりを書き連ねたエッセイ集
5 確かにそうだなぁと思わせる記述も多いと思った
4 意見の違いを踏まえて