もし重婚が成立したら-漫画評-ダブルマリッジ

 作者二宮ひかる氏の漫画は全作揃えており、かれこれ10年以上愛読しており今回もなかなかの佳作であったので報告。相変わらず男の弱さと女の強さを書くのがうまい女流作家で、読むたびに自分の潜在的な弱さを自覚させられ、作中の女性から発せられる言葉のジャブが胃のあたりを優しく締め付ける感覚にさせる。

嫁の数は金銭に相関する

 本作は少子化対策のため重婚を認める法律を可決しようというばかばかしい報道を受けて始まる少し変わった恋愛漫画だ。タイトル通りもし重婚が成立したらどうなるだろう。平安時代には当たり前だった環境が実現したらどうなるかを一時期考えていたことがあったが、そのときに出た結論は

であった。すなわち、不倫とか浮気とか重婚とか継続的にできるのってその人を囲えるだけの交際費とか生活費持ってる人だけで、それ以外(例えばヒモみたいな関係)には相当なオーラやらスキルやらが必要だよね、という話である。スキルもプレゼンスもお金も全て資本であり、資本状態にあわせて恋愛できる人数が決まってくる。 
 作者の重婚と言うテーマ選択も面白くて、たとえば二宮ひかる作品でいえば、名作『ハネムーンサラダ』では、同時に2人の女性を愛せるか、という問に、作者は女性同士が愛し合うことで可能だ、という答えを出した。二宮作品のテーマはいつも突飛でありながら核心を突いていて、いろんな思考実験に誘ってくれる。そしてその作風は後ろめたさも悲しさもないわりにどこか刹那的で痛みを感じる。

二宮ひかるの描く男と女

 あいかわらず二宮ひかるの作品には風船のような女性が登場する。軽くて、弾力があって、捕まえてなければどこかへ飛んで行ってしまう。それは思春期の頃に描いていた理想の女性像と少し違うし、少し重なる。展開の末に主人公がトゲを出してしまい、割れてどこかへ消えてしまうこともある。
 反面作者が書く男はいつも弱い。仕事もできるし人望もそこそこ厚いし、別に寂しがりやな訳ではない。ただ青年誌だからなのか作者が男をそう見ているからなのか、主人公はいつも衝動に振り回され、相手からどう思われているかと不安になりながら、強く相手を求める。主人公は可愛い奥さんと不倫相手を天秤にかけながら葛藤するが、その様子は本人は真剣でもまったく滑稽な描写がなされる。

衝動の正当化のために感情は使われる

 作者はいつもふとした瞬間の弱さと、その弱さを説明する言葉に魂を込める。作中、衝動で不倫をしてしまった主人公は、結局その関係にはまり込んでしまう。はまった後も自分はその相手を愛してるからだ、何かしてあげられることはないか、とえんえんと考え続け、それを伝えては相手に笑われる。
 男という生き物は、頭の中で自分の都合の良い物語を作ろうとするし、仕事はその舞台にすぎないし、女性はその助演者にすぎないし、感情はその無理くりなストーリーのつじつまを合わせるための小道具にすぎない。好きだの愛だの怒りだの寂しさだのと言う言葉達は、それがあるから衝動が起きるものでなく、衝動があったからそれは感情のせいだ、として語られるようになってしまった。そりゃ愛は全てとか言うわ免罪符なんだもの。それをまざまざと気づかせてくれるし、感情を表す言葉の不完全さや、その不完全さが紡ぎだす詩的な甘美な台詞達はやはり美しい。
 最近読んだ中で似たような描写がおもしろかったのは『セックスなんか興味ない 』なんかはほのぼのもゆるグロもありで好感がもてたし、グズグズしてる感じが好きなら『溺れる花火 』なんかはなかなかひどかった。手に取る機会があればぜひ読んでほしい。