perfume/ワンルーム・ディスコPV ダンスの解説とか

 以前のブログで一番反響のあった記事
perfumeのダンスを責める理由がただの俗流若者論 - BUILDING AND DEBUG ERROR
に動画付きでperfumeのダンスを解説してほしいという声が出ていたので飲み会でperfume自慢できちゃう程度の少しだけ突っ込んだ解説をしてみたい。

ダンスがperfumeの持ちうる本質

 最初に、perfumeの音楽性にはいつも「代替可能性」が論じられる。ボイスエフェクトがあれば誰だってあの歌を歌えるのではないかという議論が批評の中で必ずと言っていいほど表れる。ぶっちゃけると同じような音楽であれば僕は鈴木亜美中田ヤスタカ全曲完全プロデュースのALBUMもすごいと思った。なにがすごいかって、僕は無説明に紹介されて曲を聴いたときから3ヶ月間この曲を鈴木亜美が歌っていることを知らなかったのだ。アルバム名だけ知っていたので検索してみたら非常に驚いた記憶がある。本人を意識せず「曲の在り方」を評価できる点では非常に初音ミク的だと学者や批評家たちは口をそろえて言う。さらにいえば2009年4月末にはm-flo,mondo grosso,FPMが手を組んだアルバムまで出ており、同ジャンル(テクノポップス)の音楽性でいえば勝つことすら難しい。

 だが彼女たちperfumeの魅力は他のアーティストと違う部分があり、ダンスはその最たるもの、perfumeperfumeたらしめるものなのだ。クラブにおいてテクノの楽しみ方といえばjumpが主流なのであるが、彼女たちのダンスは新旧織り交ぜた表現をこなしている。安室奈美恵三浦大知のような新しいだけのダンスでもない、ハロプロのように古い振付を新しい音取りで踊っているだけでもない。僕の中で一番しっくりくる言い方をすればパフォーマンスが非常に「DJ OZMA的」なのだ。ただしDJ OZMA本人は踊らない、そこにperfumeのオリジナリティを求める姿勢は間違っていないはずだ。だから僕はperfumeを楽しむ時はPVで楽しむ。

振付による世界観の再構築

 今回の批評の対象となるワンルーム・ディスコのPV

 主題がワンルーム・ディスコに対してディスコらしい振付は指でL字型を作っていることと「ディスコディスコ」のループ部分での腕のスウィング、舞台装置の床や照明くらいしかない。それでもディスコ風の振付に見えてしまうところがこのPVの表現としての一番の見どころ。とくに流れ星の振付と「音楽をかけて」のDJを意識した振付のキュートさは斬新。手を回すとききれいな円形を作るのは意外と難しい。またところどころ入るわざとらしい「おでかけ」や「お掃除」の振付が非常に普通すぎてミスマッチで面白い。ディスコって古めかしいものとテクノポップって新しいもの、新旧合わさった振付による「さまざまな時代をミックスして異世界を作ること」これが今回の作品の価値ではないか。

軸という素人言説とダンスの評価軸

 映像でのダンスを評価するときに気をつけてほしいのが「軸がしっかりしてる」などと言わないこと。軸は技術の一つの基準でしかない。軸について言及するのは素人か基本重視のダンスインストラクターくらいである。逆にいえば軸にこだわっているダンサーでもない限り私はそれ以外の評価方法を知りませんと公言しているのと一緒だ。

 一般的にダンスにおける「軸」というのは体の重心から頭のてっぺんまでの直線を指す。軸とは「身体バランス」の代わりに使われる言葉であり、軸をしっかりととる必要性があるのはターンの時と姿勢が低いときだけである。生で舞台を見たときに異常なほどの身体バランスを持つアーティストなどもいるため、そういう人に出会ったときに「軸がやばい」などと使えばよい。

 シルエットや細部が人間の直観的感覚に働きかけて云々という議論も止めたほうがいい。前衛的なストリートダンスやバレエ、コンテンポラリーダンスの世界を見ると音取りやポーズひとつとっても違和感バリバリで気持ち悪いのであるが、すごい人はそこが癖になるようにうまく計算して作っていると感じることが多い。それはつまり幼いころなりに自分の"人の形"の基準があり、そこと照らし合わせたときに出てくる違和感なのだ。アニメや写真のようなポーズがしっくりくるのはこの感覚のせいだ。前衛的なアーティストはこの感覚を容赦なく壊す。さまざまな分野やジャンルにはこれが美しいとされた文化があり、それをどれだけ踏襲されているかを踏まえるべきという議論は前述の記事に書いた。

 では何を見るべきか。技術論で重要なのは「神は細部に宿る」ということ。素人でもわかるのは手首足首の使い方である。ダンスにはマイムと言って振りの時以外に雰囲気に合わせた演技をする場面があるが、踊りから演技の場面に切り替わるときに経験の浅い人は手首の力をすぐ抜いてだらんとしてしまう。もしくは右手を振っているとき、左手に意識がいかないなど、全身が踊っていないのだ。ダンスと演技の境をなくすこと=マイムを意識することで手首、指先まで"ダンスする"状態になる。基本的に肘から中指の先までまっすぐにする。わざとな動きをするときは薬指を意識して軽く力を入れる。それから肘の高さ。素人はどうしても腕や肘が肩の高さより下がってしまう。
 
あくまで基準の一例でしかないのだが、PVを見て確かめてほしい。

vogue(ボーグ)、JAZZ FUNK、アクターズスクール

 形式的な話をしよう。PVを見ただけだとダンスの質に関してはvogue、JAZZFUNKの要素が見て取れる。
まずVogueはマドンナで有名なダンスである。
http://www.youtube.com/watch?v=inBMxTa9qeQ&hl=ja
 最近ではストリートダンスの業界で10年ぶり位の盛り上がりを見せておりフランスからhouse of ninjaというvogueチームが来日したことで盛り上がったのだが、基本はマネキンのようなポーズやロボットのような動き(その名の通りサイボーグのボーグであるコメントで訂正いただいたが雑誌Vogueから派生したダンスらしい。思い込みで書いてしまい申し訳ない。)を主体としたダンスで、ファッションの要素をアピールしたいときに使われるため、これらの要素を振付に加えたと考えてもおかしくはない。
http://www.youtube.com/watch?v=7RGL8t2nJOw&feature=related
 最初の手を回しながら上に上げていく場面を見て、ベリーダンスなど民族系のダンスを意識しているのかと思ったが、上に上げていくところやディスコループのあたりでの足の動きや胴体を動かさないスタイルはこのヴォーギングスタイルに即したものであり、perfumeの特徴である「人形的なもの」にしっくりと来るスタイルである。
 またPVの1:08〜のサビあたりで腕を中心に顔をなぞったり腰をある程度くねらせた状態でやる動きはLA STYLE HIPHOPとかLA HIPHOPとか日本で言われているジャンルのダンスなのだが、JAZZ FUNKと言うジャンルのほうがしっくりくるしそちらで検索したほうがそれらしい要素が見て取れるだろう。使っている基礎としてはHIPHOPよりJAZZダンスの要素のほうが大きい(ちなみにジャンルの定義はそれを踊る人による場合が多いため厳密ではない)。
参考:http://www.youtube.com/watch?v=7G20lzOPBP0&feature=related
 特徴としては基本的なポーズとして両方とも軽く膝を曲げた状態で腰をクッと折る。ストリートダンスの世界ではここ数年で爆発的に流行している。PV中ではのっちのまっすぐしない膝の角度が特徴的だ。ちなみにこの最初のサビ部分の振付、かしゆかが膝をダウンするところを一人だけ前に一歩出るというミス?をしているが多分素人目にはわからないのでそのまま使われたのではないかと思う。
 またところどころに出てくる演技(マイム)が非常にアクターズスクール的だなと思わせる。演技についてはそこまで詳しくはないのだが、少なくとも従来のダンス的な表現ではない(近年は積極的に演劇的表現を取り入れるダンサーも急増してるけど)。また、表情の作り方やポージング、歩き方のわざとらしさやのっちが常に内股であることなど、見ての通り非常に少女漫画的。もっと言うと不思議の国のアリス的なものすら感じる。たとえば2:47のあーちゃんが隣の部屋のリンゴをとるポーズ。右手でとるとき、左手はおしりの横で地面に水平になっている。日常で右手でリンゴを取ろうと思った時左手は普通だらんとしている。ここがマイムなのだ。サザエさんのマスオさんの驚いたポーズで有名になってしまったが、もとはこの少女的なものをデフォルメしたものでわざと異世界観、通常の世界との違和感を感じさせるために作られたポーズである。

ポンキッキーズ時代の安室奈美恵を彷彿とさせる。
http://www.youtube.com/watch?v=WaSKd92mWdw

宴会芸的要素

 最初にperfumeを見て売り方が非常にうまいなと思ったのが、perfumeのダンス自体誰でも踊れる難易度の振付がしてある。このルーツはパラパラやディスコダンスなどの、皆で踊れて盛り上がれるものなのだ。特徴としての振付の大衆性。今の大学生の世代だとモーニング娘LOVEマシーンの振付などといえばピンと来るだろうか。この点が非常にDJ OZMA的と言った理由である。
 いっぽうでシンプルな振り付けほど技術が見て取れるもので、腕の角度や腰やあごの角度もミリ単位で雰囲気が変わる。perfumeのダンスをほめるなら頭で音をとるとき以外顔の角度があまり変わらないことをほめるべきなのだ。ダンスはアゴの角度で雰囲気ががらっと変わる。「オーラがある」ように見えるの技術があるのであれば、僕はこのあごの角度が基本だと思っている。ハロプロアーティストなんかはあごを比較するだけでダンスに慣れているかが一目瞭然だったりする。メリハリや細かい音どりもミリ秒単位で雰囲気が変わる。とくに初心者は早いほうが難しいと勘違いしがちだが、ゆっくりした動きほど技術が必要できれいに見せるために関節の筋肉を使う必要がある。

 また、重要なのが先にも書いたブリッコポーズやブリッコ的な動き。perfumeが優れているのはこの表現。左手を大きく開いて口の前にかざす。首の角度は目線に対して横に45°、下に45°位がいいとされている。カラオケなどで真似してみても、コツをつかむまでは難しいのだが、いったんなれると面白い。あややなどの物まねにも通じる。

 通常の自分じゃない自分を体験できること、それを賞賛されたり認められることはダンス自体の醍醐味でもある。perfumeの振付はその敷居が低いことが大衆に支持される理由ではないか。
 しかし今回の振り、ディスコループの腕のシェイクが速すぎてきれいにやるには少々技術や筋力が必要。perfumeは番組で振付を教えてくださいと言われるとこの部分を最初に教えている。前述のように肘の高さに気をつけたい。他の曲の振付もそうなのだけど。

その他ディスコの歴史とか歴史的視点については今回は調べる暇がないのとあんまり詳しくないので述べつるもりも力もない。だれか補足していただきたい。
 僕はどちらかというと古参のcapselファンだしperfumeの曲はダンスのない「マカロニ」が一番好きだし、テクノは中谷美紀のクロニックラブが好きなので皆も聞けばいいと思う。ちなみにダンスをするアーティストの中ではダンスは三浦大知が今一番うまい。(大衆に受け入れられる味があるかは別として)
なお本記事の表記とか結構適当だ。ファンの方の気分を害したら申し訳ない。
以上を踏まえて素人さんの動画なんかと比較してみてほしい。

2009/5/15/24:00 追記

 三浦大地の表記を三浦大知に訂正しました。
ここまで安室の昔の映像に対するツッコミなし。
perfumeのダンスはゲイカルチャーを許容するか - 技術教師ブログ

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