初心者にもわかるクラブカルチャー

「ドラッグになんて頼らず音楽の力だけで支えられている日本のクラブカルチャー」ってほんと? - 想像力はベッドルームと路上から
『「ドラッグになんて頼らず音楽の力だけで支えられている日本のクラブカルチャー」ってほんと?』に対しての返信 - MetaMixRec.
と、ほら来たクラブカルチャーバッシング!脊髄反射で、僕が書くべきことは何かを考えたのだが、結局「クラブカルチャー」って何だよ?という部分が全く輪郭づけられていない。議論が水の掛け合いにしかなっていないのはその部分。

クラブって何?

 クラブとは何か?と問われると少し難しいのだが、基本的には「イベントを行う場所」もしくは「クラブで行うイベント自体」を指す場合が多い。クラブは"でかいスピーカーとDJ機材が備え付けられたバー"がその基本で、イベントの主催者(オーガナイザという)がクラブのオーナーにイベントをやりたいと相談し、お金を払って場所と機材を借りてイベントを行う。ステージを備え付けているクラブも多く、ライブハウスと基本的には同じ。ライブハウスとの違いは、場所を借りてイベントをやる際のシステム、楽器などは備え付けられていないことや、流す音楽の違いだと思ってもらってかまわない。
 クラブへ行くことをクラビング(特にクラブイベントは夜からオールナイトで行われる場合が多いためナイトクラビングという呼び方もされる)、クラブの中の熱気から身体を冷ますために外に出ることをチルアウト、イベントチラシをフライヤ、イベントを開くことをオーガナイズ(もしくはオルグ)などということもある。クラブも文化コミュニティとして、数々のスラング(身内だけで通じる俗語)が生まれては消えていった。
 僕の観測範囲は主にダンスイベントとHIPHOP/R&Bイベントで、クラブでイベントも行っていたためさまざまな人たちと情報を交換してきた。かなり大雑把にだが、クラブカルチャーって何なの?というのを紹介したい。


音楽としてのクラブカルチャー

 クラブミュージックといわれる音楽のジャンルとしては、おおざっぱに分けて4つである。

  • HIPHOP/R&B
  • HOUSEをはじめとする四つ打ち系
  • ディスコ
  • ROCK

である。
 現在のクラブの楽しみ方はその音楽が好きな人たちが集まりお酒を飲みながら音を楽しむというのが主流。もちろんナンパや出会い目的の人、友達づきあいできている人、踊りに来た人のほうが実際には多く、ドラッグを求めてきた人も一部に入るだろう。
 音楽ごとに楽しみ方が違うのもやはりある。HIPHOP/R&Bのイベントは客層にダンサーも多く、主に音楽やファッションやパフォーマンスまで統合して文化として楽しむ風潮がある。4つ打ち系のイベントとひとくくりにしてしまったが、ギャルやギャル男があつまるサイバー系・トランス系と呼ばれるイベントはパラパラなどを踊る若い人たちも多かったし、ハイソ(笑)な人たちが集まるハウスやテクノ系はファッションなどと相性がいい。もちろん16ビートの音楽に乗せて縦ノリが基本。またレイブと呼ばれる野外4つ打ちイベントもあり、キャンプ場などで行われることもある。ディスコやオールドスクールと呼ばれる世代の音楽も人気が根強く、いまだにラッパズボンにアフロにサングラスでミラーボールの下、音に合わせて腰を振っている年配の客層も多い。ハードロックカフェなどの浸透もあってか、ROCKミュージックをクラブで流して楽しむ層も増えてきている。また音楽のジャンルをごっちゃにしたイベントも増えているしJ-POPを流すイベントや、3階建てでフロアごとに音楽が違うクラブなどもある。
 それぞれ服装も違えば楽しみ方も違うし良しとしている美学も違うため、いっしょくたにクラブカルチャーとしてまとめるのは少々難がある。共通前提としてはクラブという場所でお酒をたしなみながら音楽を楽しんでいること位であろう。

イベントとしてのクラブカルチャー

 またクラブで行われるパフォーマンスも年々多様化しており、レギュラーパーティ(毎週○曜日はHOUSE!など)/イベント(今度の土曜日はダンスイベント!など)という切り分け方がされる。レギュラーが主に音楽が中心であるのに対し、イベントはパフォーマンスが中心であることが多い。

  • DANCE
  • LIVE
  • BMX
  • PAINT
  • FASHION
  • FREESTYLE

などを始め、年々マイナーなパフォーマンス×クラブというのが増えている。バスケットボールやサッカーボールで曲芸のようなリフティングで楽しませるフリースタイルと呼ばれるショーや、エクストリームスポーツジャンベを叩いてアフリカンダンスを踊ったりカポエイラをしたり、タップダンスをしたり、手品をしたりパントマイムをしたり、その場で絵を描いたり服を脱いだりと、パフォーマンスのバリエーションも非常に豊富になってきた。またダーツやパチスロが置いてあったり、もしくはアメリカのライブハウスのようにステージと立見スペースのほかにVIPルームで食事や飲酒が楽しむことができるところも最近は多い。クラブに行ってどう楽しんでいいかわからなかった人たちが「パフォーマンスを見る」ことを目的として集まってきていることも最近のイベントの特徴だ。

その背景にあるもの

 クラブカルチャーの歴史は浅く50年たっていない。その発症はその音楽やパフォーマンスによって諸説あるが、強引にまとめるなら主に黒人が始めたブロックパーティが起源である。お酒と食事とレコード機材を持ちより皆で音楽を楽しみながらそのコミュニティに属しているということを再確認するもの、それがどのような意味を持つのか。例えばHIPHOP文化の発祥について。当時貧困であえいでいたサウスブロンクスでは少年犯罪が多発し、争い事が絶えなかった。そこで「同じブラザー(黒人)同士が殺しあうのは馬鹿げている、争うならお互いの文化で争うべきだ」と提唱されたのがHIPHOPという思想である。ここからDANCE,MUSIC(RAP),DJ(SCRATCHING),GRAFITI(PAINTING)などでギャングたちが競い合い、お互いの文化の良さを認め合うことで、争いによる悲劇を減らすこと。これこそがクラブカルチャーの、ブロックパーティの意義であった。
 しだいにマイノリティ文化を受け入れる場所としてのクラブが発展してきた。以前紹介したゲイカルチャー、セクシャルマイノリティの文化をはじめ、同じ思想を共有する人たちの集まる場所としても発展してきた。技術の発展により音楽が発展・多様化し、それに合わせて人々の趣向が多様化したため、マイノリティ文化をカジュアルに感じれる場所としてクラブは相性が良かったのだ。それに合わせて少し変な人たちが集まる、というイメージも広まったし、イメージが広まったおかげでマイノリティにとってはそれが通行証となりさらにクラブカルチャーとマイノリティ文化の浸透は加速した。(perfumeのダンスはゲイカルチャーを許容するか - 技術教師ブログ)
 その他サブカルチャーとしてやカウンターカルチャー、クイアカルチャー、いろんな側面を持つがそこらへんまで深く知りたい人は書籍を探して読んでほしい。
 日本では横浜などの基地がある外国人居住区でのパーティが普及したのが最初だといわれているが詳しいことはわからない。日本人がドラッグ文化を模倣したとしたらその外国人たちのマネをしたのだって説があったような、出典がが思い出せない。
 クラブカルチャーを作ってきたオリジネイターたちは、今のクラブカルチャーの現状を嘆く。HIPHOPファッションがだぼだぼなのは、「ムショ帰り」をアピールしたアメリカのヤンキー文化であり、女性が短いズボンをはくのはセックスアピールではなくズボンの余った布で兄弟の服を作るためであり、たばこやお酒やドラッグは一部の日常的に使用していた層が持ち込んだ文化であり我々が望んでいたものではない、それらをクラブカルチャーと結びつけるべきではないと。

クラブカルチャーとドラッグ

 現在のクラブとドラッグの関係を述べるのであれば、どの客層が集まるイベントか、を語らなければすっきりする議論はできない。ダンスやライブイベントはデイタイム(昼や夕方からの)イベントとして行われることが多くなり保護者も普通に遊びに来るようになった。しかし、現代はともかく、クラブカルチャーの発展・普及の段階においてドラッグが一役買っていたことだけは事実だろう。薬がカジュアルに手に入る場所、それが事実であれ虚偽であれそれを目的にした客は僕がイベントをしていた時も必ずいたし、ドラッグはリミッターを解除する装置として働いて、音楽の楽しみ方の一つとして(皆の認識の上に)存在していたことは確かだ。なお、僕のイベントはドラッグもナンパもなく純粋にパフォーマンスを楽しみたいお客さんばかりが集まってくれていたため、当時としては奇跡のイベント扱いされていた。

 クラブカルチャーはこの10年で大きく変わった。
 一つは音楽の流通の変化。TRFのあたりからクラブ発メジャーアーティスト、クラブとテレビ両方で活躍するアーティストが音楽業界の大半を席巻した時代があり、それを目的でクラブに来る、従来のクラブカルチャーを踏襲しない客層が増えてきた。perfumeのダンスは立派にクラブカルチャーを踏襲したものだし、中田ヤスタカの音楽も爆音の流せるクラブだからこそ盛り上がる。
 一つはドラッグ。2002年までがピークであったように思う。というのも当時は「マジックマッシュルーム」というものが合法麻薬として流通しており、規制されたのが2002年であった。当時はクラブに遊びに行けばなぜかハイな客はいたしドラッグない?と聞かれたこともあった、彼らがドラッグをキメていた場面は見たことがなかったし、純粋にお酒の力だったのかもしれない。逆にドラッグがなくてもお酒でハイになる事が出来る層こそリクラブテラシが高いと言えるのかもしれないし、飲みすぎて暴れてドラッグ以上に迷惑をかける場合もあることは論点だろう。
 それらの規制に加え、一般の客層も増えてきたため、今まで見て見ぬふりをされてきたドラッグが、完全にアウトにしようという風潮が強まってきた。一部のクラブではドラッグどころか禁煙スペースを設けたり、IDチェックを厳しくするなど対応も厳格にすることが多くなった。たまに警察の巡回が入ることも
 結果メジャー/アングラ(アンダーグラウンド)という図式が生まれ、クラブに客層による階層が出来上がった。
 広がるダンスイベントなどパフォーマンスを中心とするイベントの増加も象徴的だろう。音楽に合わせてパフォーマンスをする人間はそれだけでハイになれる術を自然に身につけていく。爆音に合わせて身体を動かすと自然とテンションが上がってくるし、その上パフォーマンスで人から賞賛をもらえるとなれば言う必要もないだろう。
 そこらへんの事情を勘案すると、ドラッグと合わせてクラブカルチャーを語ることがいかにあいまいで生産性のない議論かがわかる。この記事に書いてはいないが地方と都市部のクラブ事情もまた違う訳で、その土地土地の楽しみ方というのも存在する。文学として書かれてきたクラブはヤンキー文化に位置し、生き場のない若者がたどりつく場所の象徴として書かれている。
 クラブやレイブという楽しみ方が健全かそうでないかは議論がわかれるところであるが、少なくともクラブカルチャーは細分化し、同時にアウトではないイベントが増えていることは確かだと僕は思う。

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