フリースタイルダンジョンの楽しみ方はじゃんけんみたいなもんだよ

深夜番組お願いランキングの1部と2部の間にHIPHOPビートに乗せたラップでバトルをするフリースタイルダンジョンという番組がおこなわれている。ジブさんこと不可能を可能にした日本人、ナンバーワンヒップホップドリームでおなじみZeebra(以下敬称略)がオーガナイズ(主催)のこの番組、出演者のスキルしだいで、回ごとに波はあるけれど非常に面白い。

 これにハマってる友達も多く、どう楽しんだらいいのか、という話をよく聞かれるし解説しておこう。基本は言葉を使ったボクシングやプロレスみたいなものなのだけれど、脚本はない上に場の雰囲気や緊張感、相性、掛け合いのうまさなどで、(実績的に)格下の相手が格上の人に勝ってしまう奇跡がドンドコおきるのが面白い。

ラップをする人のことをMCといい、ラップを乗せる音楽のことをビートやトラック、BG、地域によってはインスト(インストゥルメンタル)などと呼ぶ。

基本は韻を踏む

韻とは、ようはぼいんをあわせた単語を文章の中に入れ込むことで、たとえば「ライム(韻のこと)」「タイム」「ライフ」「チャイム」「アイス」など、母音が同じ言葉を繰り返すことをいう。前述の例だと母音はすべて「あいう」となる。

単語の中にこの母音が入ってればいいので、韻主導のダジャレめいた芸風のMCもいれば、メッセージ性の強い文章に韻を重ねてくるMC、放送禁止用語など印象の強いパンチの聞いた単語を並べて会場を盛り上げるMCやわざとリズムをずらして文章のおしりだけでなく中盤や頭に韻を持ってくるトリッキーなMCもいる。

MCバトルで最大のものは昔(2000年前後)はB-BOY PARKというイベントで行われていたものだったのだけれど、いまはUMBというイベントが主流で、実績もそれが大々的に取り上げられる。we are the wildが懐かしい。

韻についての詳しい説明は専門家に任せたい。

www.fumu.in

 

スタイルウォーズの面白さ

このフリースタイルダンジョンには5名のバトラー+隠れモンスターというゲストバトラーが登場するのだけれど、それぞれの能力やパラーメータを分析しながら見るのが一番面白いと個人的に思っている。

それぞれ「パワー」「テクニック」「雰囲気」の3つの点それぞれにどれだけの能力が割り振られているかを分析するとわかりやすいし楽しい。

パワー

ライムするときの選んだ単語一つ一つの印象の強さのことで、ボクシング的にはヘビーパンチャー的なスタイルだ。放送禁止用語を使って相手を馬鹿にする場合もあるし、相手に悪い印象を与えたり、その場面がイメージできてしまう言葉がこれにあたる。般若や先日の隠れモンスターのQ、最近印象深かった挑戦者のDOTAMAがこれにあたり、引き算をして言葉少なめに出したり、韻をわざと踏まずに単語のパンチ力×韻を最後に持ってきてボディブロー(おなかにパンチ)のようなきめわざとして炸裂させる。一発逆転も可能な変わりに空振りも多いのがこのスタイルだ。

スキル・テクニック

いかに性格にビートにはめて意味のある韻を踏むか、という部分が評価の大部分で、一番わかりやすい勝敗基準である。32ビートでカツゼツよく言葉を発したり、文章や単語に2重3重の意味を持たせて発したりトラックのブレイク部分にあわせて曲っぽく歌ったり(フロー)、煽りのうまさだったり。R指定やT-PABROW、ACEなどはこのスキルやテクニックが飛びぬけて高い。一方でバトルで一番ディスり(攻撃し)やすいのもこの部分で、噛んだりビートに乗れなかったり、相手のスキルのなさをネタに仕上げてあいてをコケにするタイプのバトラーも多い。

雰囲気

ここが一番難しいのだけれど、バトルをしているときの佇まい、振る舞い、ゆるがなさ、ラップのメッセージ性の強さやリズム取り、声、表情の独特さなどのことである。HIPHOP自体は俺が一番だ、と主張することが王道スタイルで、お前が何を言おうと俺の耳には届かないといったスタンスや、最近の若手だとお前のことをリスペクト(尊敬)してるからこそ倒す、といったスポコン的なさわやかな雰囲気系のMCもいる。漢や般若、サイプレス上野などはこのタイプのバトラーで、生き様をラップで語る、といったスタイルをよく出す。

フリースタイルじゃんけん

バトルにおいて、結果的にこの三つの要素はじゃんけんのような関係をもっていて、テクニック系はパワー系に弱く、パワー系は雰囲気系に弱く、雰囲気系はテクニック系に弱い、といった相性が見て取れる。もちろん誰がどのタイプ、と明確に割り切れるわけではないので、総合力で基本的にジャッジされているが、審査員の好みがどの要素を中心に分析しているかを見るのも楽しい。

たとえば相手の得意なフィールドに乗っかって、相手がテクニックで押してきたらこっちもテクニックで返して、相手を圧倒できると相当かっこよくなったり、逆に雰囲気系のフィールドでメッセージ勝負になったときは、やっぱりキャリアが長いほうが言葉の重みが違う分有利になってしまう。「俺にはラップで成り上がるしかねえんだ!」って若手が熱を発しても「俺も昔はそうだったしそこからなりがったんだよ!」とモンスタークラスのベテランや大御所に言われれば何も返せなくなるのである。またMCが弱点だと思っていたスタイルを鍛え上げて自分なりのスタイルを見つけ成長する姿を追っていくのも楽しい。とにかく勝ち負けに納得が行かなければそれはパワーや雰囲気など審査員を唸らせる素人にはわからない何かがあったと見て取るしかない。

アンサーと教養

相手が出してきた単語やメッセージに対して自分の言葉をぶつける即興のことをアンサーと呼ぶ。緊張感のある中で面白い返しを取り出して相手を馬鹿にする頭の回転の速さはやはりバトルの醍醐味で、バトルせず自由にラップをリレーするサイファーとはやはり一線を画す。

アンサーの中には、昔のラップバトルの言葉をもじったり、トラックとして使われている元の曲のリリックの一部を借りてきたり、言葉から昔の音楽を取り出してそこから広げたりといった教養を見せ付ける戦い方もあり、このあたりになると本当にHIPHOPが好きな人しか盛り上がれないし、玄人はやはりその部分にうなる。

2000年代以降、HIPHOP業界に高学歴ラッパーや高学歴ダンサーがこぞって入ってきて、アウトサイダーのための文化だったものが、エンターテイメントとして一気にレベルが上がってしまった。たとえばKREVAは上智大卒だしライムスターは早稲田卒で、ラップに必要な文化資本や教養レベルは一気に高まってしまった。アッパーなラッパーとアングラなMCがよくけんかすることもあるし、そのケンカ(ビーフと呼ぶ)の決着をラップでつけようなんてエンターテイメントも出てきたりするので、そういったテレビ以外での関係性も要チェックである。

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