新型インフルエンザという呪い

なんか新型インフルエンザによる報道パニックのほうが気持ち悪い。
厚生労働省のHPには特設の関連情報ページもあり、対策を呼び掛けているが、ウイルスについては

今回の新型インフルエンザの感染力は、季節性インフルエンザと同様に感染性は強いが、諸外国においては、多くの患者が軽症のまま回復しており、我が国のこれまでに確認された4名についても同様であった。

治療については、抗インフルエンザウイルス薬の効果があると報告されている。

しかし、基礎疾患(糖尿病等)のある人たちを中心に重症化する傾向があり、死亡例も報告されている。

と、そこまで心配する事じゃない気もしている。僕の周りはいまだ牧歌的日常が続いているし、twitterも情報の共有から下世話な話までいつもながらに盛り上がっている。今日もパンデミック(笑)とか悠長に構えていたら関西のほうで感染拡大だといって朝から騒いでいた。

現代の魔女狩り

一方で昨今の異常に感じるまでの報道にやはり感じていることはみな同じで、必要以上に報道をあおりすぎて、感染者をバッシングする魔女狩り化しているように見て取れる。
google:新型インフルエンザ 魔女狩り

新型インフルエンザ、寝屋川で“パンデミック”状態 感染者出た高校と市に中傷、脅迫

【「賠償しろ」理不尽な要求も】

 市や高校、府教委に直接、批判の電話をかける者も現れた。電話は12日までに市に51件、府教委と学校には100件超が寄せられ、多くは市や学校の対応を非難するものだった。「なんで、あんな高校が留学するのか」などという根拠のない批判や「謝れ」「賠償しろ」など、脅迫めいた理不尽な要求をする者もいたという。

WEB上、報道上のバッシングだけならともかく具体的な攻撃にまで発展している。接触の可能性が高いかどうかなどは想像の範囲でしかないが、なんとも「お前たちは日本に呪いをもたらした!」と言わんばかりだ。
これらの批判電話の対応に教員たちが時間を割かれていることは何とも悲痛。
その上いうなら電話対応に費やした時間に対しても税金で給料が払われているわけで、その拘留時間は教員の受け持つ40人の生徒たちでなく、一人のクレーマーのために費やされたわけだ。WEBで誹謗中傷した人たちを捕まえる前にまずこちらを捕まえてほしいと思うのはおかしなことなのだろうか。
もしくはそういう行動は不安からくるもので、不安の発露の対象をもっと明確にしなければならないのだろう。
海外渡航に端を発するバッシング事件なのだけれども、数年前の日本人人質事件と違った様相を呈している。

重大な被害の可能性は赤ちゃん・持病持ち・発展途上国

【新型インフル】「弱毒性」冷静な対応を
弱毒性で感染力も普通、とくにパニックするようなこともないと思うのだが、一方で免疫力の弱い赤ちゃんや持病持ち、前述の基礎疾患のある人たちは病状が少し厳しいらしい。
しかし一方で、今のうちに感染できるならかかっておいたほうがよいとする意見もまじめに専門家から語られているという。インフルエンザウイルスの免疫ができていればこの先の強毒性のウイルスに感染したときに被害を減らせるという主張らしい。*1


解説委員室ブログ:NHKブログ | おはよう日本「おはようコラム」 | おはようコラム 「新型インフルエンザ どう守る発展途上国」

そもそも抗インフルエンザウィルス薬の備蓄は先進国と発展途上国の格差があり、たとえばアメリカでは人口の6分の一、5000万人分ある一方で、インドネシアでは50万人分と2%以下にとどまっています。東南アジアに配布できるようシンガポールに備蓄があり、日本政府もWHOを通して10万人分を送っていますが、充分とは言えません。
医薬品が充分でないばかりか、病院などが機能していない、医療従事者の数が足りないなど医療体制が整っていない地域では、国も人もまさに“基礎体力”が落ちている状態で新型インフルエンザのリスクにさらされることになると言えます。さらに東南アジアなどでは豚と鳥を一緒に飼っている農家も多く、今後、新型インフルエンザウィルスが毒性の強い鳥インフルエンザの遺伝子が混じりあい、変異する可能性も排除できません。

また考えたいのは発展途上国。医療が行き届いている国では薬や療養のための環境が整っている。
問題は発展途上国における対策であって、もし日本に飛び火する危険性がなければ僕らは高見の見物だったのだろうか。

騒ぐ人たちの気持ち悪さ

今回の豚インフルもそうだけど、細菌テロとかバイオテロの注目度みたいなのが高くてキモい。

たぶん発端はバイオハザードとパラサイトイブ。バイオハザードは人がウイルスに侵されてゾンビになって意識がない状態で人を襲う。パラサイトイブは遺伝子の中のミトコンドリアが暴走して人の意識を乗っ取ってしまう。ゲームも映画化もされたはず。

バイ菌が人を操作して無意識に悪いことしちゃう、そしてイラクバイオテロ対策をアメリカがしたことが報道されたのを皮切りに一気に注目度が上がり。ここ数年の映画やドラマ、タイトルそのままの「細菌列島」「感染列島」をはじめ、「ブラッディマンデー」、「L(デスノートのオリジナル映画版)」「20世紀少年」、洋画だと「アウトブレイク」などなど。
ウイルスによるパニックと言えば、「僕らの勇気 未満都市」から10年以上たっていたことに驚いたのだが、ウイルスパニックを書いたものとして、当時は大人と子供のディスコミュニケーションのメタファとしてウイルスが使われ、最後は「結局大人が子供を助けてくれる」という展開で終わった。
 ニュースを見れば「はしか(←まぁこれはやばいんだけど逆にあまり報道されなかったような)」「鳥インフルエンザ」「新型インフルエンザ」、にいたっては、ちょうど世界の裏っかわなのにこんなに盛り上がって、連日報道されてその裏に隠れたいくつもの悲劇とか大事な出来事が隠されちゃう。

結局そこに注目する心理ってなんだろうと思って考えていた。

終末論と霊的なものと

 これだけハイリスクな集団を排除しろ!という盛り上がりの裏側に、実は感染したいと思う嫉妬のようなものがないかと僕は思うのだ。
細菌兵器みたいな「目に見えないけど世界を変えちゃう力」に対してのあこがれがまずある気がするのだ。
基本的に世の中に対して不安で不満で、だから誰かが変えてくれる気がする。一種のメシア待望論。

それから、そこに霊的なものを見てる気がしてならない。とり憑かれ。バイオハザードみたいに体が動かなくなる。もしくは体が勝手に動いてしまう。自分の責任じゃないのに体が動かなくなったり変な行動をとったりすること。これを無意識に恐怖するどころか期待してるんじゃないかなって思う。責任回避願望とでもいおうか。ある意味で呪いをかけてほしい、もしくは人がかかればいい、その優先順位が人によってバラバラになってきているのではとも思う。呪い願望以上に被呪い願望が強くなっているのではという気がしている。

特に香山リカ言説でいえば、若い時期は「新しい自分になりたい」「今の自分がやだ」って感情が強くて、自分が自分じゃなくなりたいとか、占い依存のように行動一つ一つが失敗か成功かという運試し的な要素も強く、「操られたら責任も回避できる。いつもの圧迫的な日常から解放される。」そんな期待があるんじゃなかろうか。そういう文脈では硫化水素自殺にも通じるものがあって、結局自殺も一概には言えないけど現実感がないとか新しい自分になりたいとか運試しとか一部にいろんな要素が見られる。

日本の医療技術とか製薬技術がこれだけ進歩して、一方で製薬の認可とかのシステムが遅れてて時間差ができて、人体への影響と製薬速度のジレンマとかがあるんだけど本来ならこっちの方を問題にすべきで、あと映画なんかの映像で見る"感染で全身の血が出血したり沸騰したり"する症状、細菌には潜伏期間ってのがあるんだから速攻で症状が出るのは細菌の力と言うよりもうアレルギーのレベルだよね。それだけのリアリティの無さが逆に若者をウイルス問題に引き付けてる気がしないでもない。

インフルエンザの本質

今回のインフルエンザの本質は、「メキシコの生活環境の劣悪さ」が見えてきたことに他ならない。豚インフルで死者が出たのはメキシコだけ、最初の数週間その他50人〜100人近くの患者が出て広がってる国でも死者の報告はなかった。
 薬の情報は世界的に共有できるものなのに、メキシコは治療用の薬がもうないってのをニュースで報道してた。どれもまだ仮説でしかないのだけど、栄養失調とか別の病気と併発したとかが考えられていて、それだけ貧困とか格差がひどいんだと思う。

 大学時代にメキシコの英語教員の留学生が来ていて、唯一英会話(と言ってもカタコトで)できるのが僕だけで、よく会話していた。彼が教師を志したのも、メキシコに全員が教育を受けられる環境がないからなのだそうな。国費で留学してきて日本での英語教育のメソッドとテクノロジー教育のメソッドを研究されて今は帰国されて、学校の先生をやっている。国費で来るってことは相当エリート。

たまにPCに向かって辛らつな顔で英文のメールを眺めてたことを思い出します。
報道が始まってしばらく彼にもメールで連絡が取れず、ちょっとみんなで心配していたが、先日元気だというメールが来た。学校も閉鎖しているが、メキシコ国内ではまったくパニックにはなっていないとおっしゃっていた。

新書で語られるような典型的な日本のカーニヴァル化、終末論、ネオリアリズム、すべてが海外の日本より凄惨な問題たちを見えない何かに覆っていく。

そういえば厚労省って厚生労働省だったよな。

労働問題が厚生問題でかき消された感もある。

に触発されて書いた。専門知識もないのに少し反省している。

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*1:ソースを見失った。