尊敬しているからこそ、親を越えなければならない 反抗期の王道映画-映画評-「荒川アンダーザブリッッジ」

 漫画原作、アニメ化された荒川アンダーザブリッジが、実写ドラマ化。よく見てみたらキャストもおかしく、小栗旬がカッパ役だったのは声を出して笑った。山田孝之城田優林遣都桐谷美玲安倍なつみ。今をときめく舞台俳優や映画俳優、モデル、ミュージシャンと、何かおかしなことになっていて原作を見たあとだとかなり楽しめる。
 ただ、実写化は大切なものを盗んでいきました。演出や脚本のおかげで原作の破天荒さがなくなり、登場人物達はみな牙を抜かれてしまった。舞台でのお芝居のような世界観であり、わざわざ映画館で見るようなものでもないし、一方で原作になかった「同意」と右肘をあげる合図を含めた演者達のこだわりの演技は見ておきたい。
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 実写ドラマはほぼ映画のスピンプオフのための映像みたいな位置づけで、小栗旬の語りが異常にうざいのが見所。そしてその総集編兼続編として、リクが父親離れする場面を描いたのが映画篇である。
あらすじとしては、父親はリクに荒川開発のプロジェクトを任せ、リクはプロジェクトを放棄して荒川に住み着いてしまう。結果父親のプロジェクトの障害となってしまう。
漫画版やアニメ版でマジキチだった登場キャラクター達は、実写版では完全に事情持ちのメンヘラに落ち着いてしまい、まるで依存する相手を見つけ彷徨うような振る舞いを見せる。ボーイミーツ映画ではあるのだけれど、本作はヒロインとの恋愛描写も、アニメ版のようなロマンスというより狂気すら感じるニュアンスで展開していく。いずれにせよ守るものが出来てしまったリクは、父親と対峙することになる。
 ヒミズほど過激ではににせよ、リクは普通でありたい!と叫ぶし、自分の中の精神的な、自分を縛り付けうる象徴としての父親を殺さなければならない。
コールバーグの理論を借りるなら、道徳性=自分の価値判断の基準は、自分の周りにいた大人に服従するところから始まり、慣習的よい子の段階を経て、自律的な、原理化された判断基準を見いだす必要がある。
リクはどこかで父親の刷り込んだ規範意識に縛られ、それと自分が感じたことを編集し自分なりの規範を作り上げなければならない。これがこの映画の核である。原作同様リクは「人に借りを作るな」という規範意識を父親に刷り込まれ、クライマックスにはそれに従うべきか抗うべきかの選択を迫られる。
人に借りを作らないためにはマッチョであらねばならず、しかし荒川で暮らす以上人と助け合う必要がある。大人はマッチョであれという。しかもそれは経済活動からくる理由で。あからさまに象徴的な父親とをどう越えていくか、そして最後のヒロインを巡る落ちは、この発想はなかったとつばを飛ばして笑えるので大きな見所である。
突っ込みどころ満載なので家族や友人や恋人と上映会をしてわいわい見ても面白いかもしれない。ミュージカルを見る感覚で大人も子どもも楽しめる。次回聖☆おにいさんの映画にも期待したい。