コミックの半分は優しさでできています-メディア評-漫画「さらば、やさしいゆうづる」

 あー、こういう作品好きだわー。青年期特有の、他人の善意に対し偽善ではないかと疑いのまなざしを向ける主人公と、それをものともせず優しさに巻き込んでいく登場人物達。綺麗な吉本ばなな感すら感じる。ちょっと特異な環境で相互承認を与えあうストーリーを描くコミカルでハートフルな短編集

 本書は漫画家歴2年と噂の米粒自画像の作者が書いたSF(少し不思議)漫画。主人公達、もしくは登場人物達は少し不思議な力、もしくは少し不思議な環境で起きる少し不思議な事件に巻き込まれながらアイデンティティを獲得していく作品。横道過ぎるからこそこのジャンルは力量が求められるのだが、収録されている4話はどれも物語のテンポや設定も綺麗にまとめられている。
 1話目はある日突然妖怪が見えなくなった主人公の話。2話目は彼氏と別れた女の子の話。3話目は星に願いをかけた生で弟の顔が見えなくなった女の子の話。4話目は幽霊の話。幽霊の話はご都合主義感があるが、どれも喪失が原体験となるのだが、どれもそれを埋めようとする話ではない。喪失を埋めるべきなのかと焦燥感や強迫観念を感じるのだが、だんだん冷静になり、自分が何に恵まれ何を失ったかに気づき、自分の中のルールや秩序、すなわちこだわりを再構成する。
 人や権威に依存したこだわりが削ぎ落とされ、ある程度自立独立したこだわりに変わっていく。最近のラノベ原作のアニメも層であるが、ある種厨二的でもある、イベントによる反抗と承認とが同時に得ることができる青年期のユートピアがこれらの作品には描かれているのである。主人公達は周囲の優しさに巻き込まれ、このまま苦難があっても乗り越えていけるんだろうなと思える後味のよい作品だった。