ゆるふわ愛されエリートの苦悩と葛藤-メディア評-のだめカンタービレ最終楽章後篇

 以下多少のネタばれを含みますのでご注意ください。また登場人物についての説明は省きますが、映画の構成上前篇を見ればドラマ編がわからなくても内容が理解できる構成になっていました。なお本記事ではオチまでは扱いませんのでご注意ください。

のだめカンタービレ DVD-BOX (6枚組)
アミューズソフトエンタテインメント (2007-05-25)
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5 最高にエンターテーメントです
3 音楽付きでのだめが楽しめる!!
5 傑作!!買って悔いなし★
5 映画で完結して欲しくない
5 音楽の使い方が最高!






物語を彩る音楽たち

 ここまで誠実に作られた音楽映画も珍しい。以前学校で教えてくれない、芸術を評価するための6つの視点 - 技術教師ブログという記事を書いたが、映画で演奏される音楽一曲一曲の時代背景や作曲家の苦悩や葛藤を誠実に玉木宏が説明し映画の重要なエッセンスとなるよう演出されている。これだけを聴きに来ても良いくらいの作品。
 ストーリーの舞台はフランス。パリに音楽留学しに来たチアキとのだめ。場面は前篇に引き続き、パリのチアキの引っ越しのシーンから始まる。屋根裏でなにやら毎晩行われる不気味な住人のテルミン演奏の伏線が入り、この住人が案の定物語のキーパーソンとなる。チアキは指揮者としての仕事も順調に増え、天才ピアニスト孫ルイとの共演が決定し、一方のだめたちは、日本にいたオーケストラ時代の友達キヨラがコンクールに出るということでコンクールへ応援に。そこでのキヨラとリューの恋愛描写が作品全体の中で一番恋愛として成立していたなどと野暮な事は言わないが、このキヨラ役の水川あさみの演奏の演技は圧巻。後ろのオーケストラの演奏にも気後れせず、またバイオリンの演奏も合成(代役)など使わずしっかりと音に合わせた演奏をこなす(もちろん音はすげかえてあるだろうが)。素人でもテクニックが必要であろうとわかる楽曲の演奏を、しっかりと再現していた。
 そのコンクールで、チアキと一緒に演奏したいという曲を見つけてきたのだめ。キヨラの祝勝会の最中、楽曲を完全に耳コピしてしまう才能の演出。しかし、チアキはその曲を孫ルイと一緒に演奏する事が既に決まっていたのだ。その上音楽学校でも課題曲ベートーベンのピアノソナタ第31番(うろ覚え)に対してまったく上手に演奏できていないと先生に言われ、落ち込むのだめ。この曲は裏切りに対する悲哀や絶望を描いた曲で、まだ指が軽すぎると指摘される。チアキは泊まりこみでのだめの練習に付き合う事を決意。徐々に演奏の楽しさを理解していくのだめ。練習とキスと、平和な日常の場面が展開する。
 そして孫ルイとチアキの公演の日、のだめは目の前で自分が想像していた以上の演奏を見せられ落胆し、素直に二人を応援できなくなる。
 

のだめの逆プロポーズ

 本編がぐっと、ジェットコースターの下降のように加速度的に面白くなるのがこのシーン。演奏会が終わった後チアキが家に帰ってくるとのだめがシャンパンを用意していた。気味悪がるチアキ。「今夜は泊まっていっていいですか?」という。いつものようにそっけなく「いいけど、明日からオケの練習に入るから早いぞ」と返し、一方でのだめの様子を気にかけるチアキ。結局泣き崩れるのだめ。何故泣き崩れたかは本編を見ていただきたい。
 翌朝のシーンになり、チアキが仕事に出かけようとした時、そこにはシーツに顔意外の全身を包んだのだめが立っていた。のだめカンタービレのドラマ全編を通して初めてとと思える「性」をほのめかす描写。それに加えてのだめの一言。「結婚してください」という超展開。案の定チアキはいつものボケだと思いいつものようにのだめを軽く殴るのだが、この選択が二人の関係を一気にかき乱す。
 チアキに振られたのだめは、指揮の名手シュトレーゼマンと久々に再開する。シュトレーゼマンはのだめに演奏をお願いする。元々演奏技術がある上に、裏切りの悲哀や絶望を経験してしまったことから、のだめのベートーベンピアノソナタ31番は完成してしまった。それを聴いていたシュトレーゼマンは目に涙を浮かべうちふるえながらのだめに急きょ自分の公演に出ないかと持ちかける。
 ここからの急展開が非常に面白い。とんとん拍子で話は進み、のだめは案の定公演を成功させ一晩で世界から注目される存在になる。演奏の描写は相変わらず豪華で説明も丁寧だ。非常に技巧的な音楽を楽しみながらチアキの気持ちまで含めた描写にも注目したい。またふと気付いたのだが客席の様子を映す時、真ん中に男(チアキ)がいたらその周りを女性で固め、真ん中に女性がいたらその周りを男で固めるという構図のこだわりなども見て取れた。
 ここから映画のCMのチアキが走るシーンまでは加速度的に楽しめる。映画初日で60億円を叩きだすだけあり、映画館の中でもだんだんと笑いが起きなくなりお客さんがみな集中して見ていた様子だった。

テクニックと才能を持て余し秀才に囲まれた天才の葛藤と成長

 しかし、この映画の終わり方のひどさは方々にて語られている。終わりを急ぎ過ぎた感、また別の映画や特別編を作れるような余白を残した感が残念ながら見てとれてしまった。また作品全体を通しても「才能やテクニックがあっても必ずつまづくし、スランプに陥って原点回帰して目覚めました」以上の教訓が読みとれないという結果は大きな原点要素ではないか。
 この「のだめカンタービレ」の映画やドラマのすごいところは、近くいにいる人たちが技術と努力でどんどん世界にはばたき、フィールドが大きくなるごとに新しいライバルがどんどんと現れたりスランプに陥り、愛や友情によってそれを克服していくところにある。少女漫画でありながら少年漫画のセオリーなのだ。恋愛や演者の丁寧な心情描写もあり、作品全体を通して魅力的なキャラクターが描き出され、老若男女楽しめる内容になっている。音楽の知識がない人でも楽器名さえ分かれば丁寧な解説もあり、音楽が記号以上の一定の意味を持ちだす。また説明だけ読むとセカイ系と思えるが、宿命論的な世界観でありながらも、ちゃんと周りを巻き込みながら恋愛・音楽していることも評価したい。
 個人的に映画を見て考えていたのは、この映画の感動は主人公たちの人柄と高いテクニックに担保されていて、もし天才ピアニストたちの演奏をデータベース化し再現した演奏ロボットができたとき、人々はこういう映画に感動する事が無くなるのか、それともまた新しい楽しみができるのだろうか、そんな事を考えながら見ていた。

 もう一度この映画を見たいとは思わないが、もう一度あのキャラクターたちに会いたい、そんな感情を持たせる作品であった。


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5 感動
4 やはり買うしかないカナ
3 アニメ手法のやりすぎ
5 のだめファイナルの前編/のだめにはきつい局面
4 面白い!!

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