中学生でも理解できる記憶術の本-書評-マンガでわかる記憶力の鍛え方

サイエンス・アイ新書から児玉光男氏の記憶術入門書。
一般的な自己啓発本と内容自体一緒だけど、挿絵も多いし文字数も少ないし、学校で職場で話題として使えるかもしれない。
記憶術とか知らないって人は本屋で見つけたらぜひ立ち読みを勧める。どちらかと言うとトピック本である。
簡単に要約しようと思ったけど内容が浅く広くなのでかいつまんで要点だけ書き出してみます。ほとんど僕の意見がメインだけど。

1.そもそも記憶力なんてない

 だいたい記憶力とか言うと「一般人は脳の3%しか使われていない」とかいう嘘だかレトリックだかわからない都市伝説を思い出すが、そんなたぐいの「やらないとやべえよ」「脳鍛えないとやべえよ」系の追い込みライフハック本じゃないとこだけは評価したい。脳を鍛えるというより脳を適切に使うというニュアンスである。
 記憶と言うのも具体的にすると3つ、「記銘(覚える)」「保持(忘れない)」「想起(思い出し、連想)」であり、これらを記憶術や忘却防止術、脳の使い方などを工夫して少しでも多く覚え少しでも忘れにくくするだけなのだ。

また、記憶術は万人に聞くわけではない。覚え方ひとつでも人それぞれ得意な5感があるという。においを覚えるのが得意な人や触って覚えた方が忘れない人など、本書ではそのチェックもできるが二人以上いないとできないようなことばっかり書いてあるので、職場や学校で話題づくりついでに試してみるといいかもしれない。

2.覚えたいことにポジティブに

この手の本で必ずと言っていいほど書いてあるのがこの一文。「人は楽しいことや印象の強いことを記憶する」「覚えたいことに興味を持ちましょう」。それができたら苦労はしない。そして自己啓発本のようにイチローや羽生名人がどれだけ記憶術の達人で野球や将棋が好きかとエピソードを紹介している。

「いやいや、そんなに暇じゃないんだよ。テレビもネットもゲームも趣味もやりたい。記憶にあててる時間がないからこうして記憶術を知りたいって言ってんじゃん。」なんて至極もっともな返答が考えられる。そんな人は次の方法を試してみてほしい。
先日はてな界隈で盛り上がった「記憶の宮殿」という記憶術を知っているだろうか。頭の中に家をイメージしそれらの部屋に関連付けて記憶をしていくというものだ。たまたま見た記事で知ったがこの手の記憶術は実は2000年前からあるらしい。
そして本書にも書いてある。要は体の部位とか家具とか身近なものに関連させて覚えれば忘れにくくなるよというのだ。お使いで人参とピーマンと長ネギと牛乳を買ってこなければならなくなったときおでこに人参つけて肩にピーマンつけて脇に牛乳はさんで尻に長ネギつけてる人をイメージしたら忘れにくくなるよ、とそれだけのことだ。

3.3回リハーサル、寝る前暗記

次に、記憶のための習慣だ。基本は3回。覚えたいことが知識であればイメージして声に出すリハーサルを、それを学んだ1時間後、6〜12時間後、24時間後の3回行うと長期記憶として記憶され確実に忘れにくくなる。人の名前であれば質問するなどして実際に3回声に出してみる。顔と名前を一致させるのも大事だ。
それから覚えたいことは夜寝る前の一時間に覚えること。理由は二つ、一つは起きていると短期記憶としてどんどん上書きされて消えてしまうこと、一つは寝ていると記憶が整理されるという結構有名な理由による。
でも「勉強は朝起きてから」しろって学校で習った学生たちも多いんじゃなかろうか。ひとつ切り分けてほしいのは記憶と勉強は違う。記憶は覚えることであり、勉強は課題を解くことである。暗記であれば寝る前にパンクしない程度に、計算なら朝の疲れが少なく頭がさえている時間にと言うのは間違ってはいないと思うよ。
ってそんな習慣ができてたらこんな本、手に取ってないと思うけど。

4.連想できる知識をたくさん用意

 一つのキーワードを覚えたいとき、ただ覚えるのではなく連想できるキーワードをたくさん作っておくことが重要だ。
例えば今適当に思いついた「嫌気呼吸」というキーワードを覚えたいとき、説明として「酸素を使わない代謝」とだけ覚えてもすぐ忘れてしまう。たとえば対峙する概念である「好機呼吸」が酸素を使う我々が行う呼吸であるとか、呼吸とは代謝であるとか、「嫌気と言えば三宅がさ〜」、とかなんでもいいのだが、近似するもの、対峙するもの、類似するものを一緒に覚えておくのだ。忘れにくくなるしいろいろ連想も発展していく。本書にマンガが書いてあるのもマンガでわかるシリーズ自体、マンガを連想させることで忘却防止や想起を促進する効果を狙ってである。
 ちなみに余談だが「決断の早い人」というのは決断力などという抽象的なものがあるのではなく、どうやら常日頃からイメージトレーニングや連想・シミュレーションを繰り返し、そのタイミングが来たらシミュレーション通りに判断するから決断が早いのだ、というデータがある。
日頃から意識してイメージトレーニングやシミュレーションをしておくのは記憶力うんぬんより実際の仕事の場での判断において重要である。

5.右脳を使う?

 有名な話だがマジカルナンバーセブンをご存じだろうか。人は一度に何かを覚えるとき「7±2」の事項しか記憶できないという実験結果だ。
しかし、本書においては人間は顔や映像などの方が得意で記憶するものだという。ここら辺が非常にトンデモ脳科学本みたいで嫌なのだったが、話を読んで気が変わった。
 本書ではトランプを用いたトレーニングを紹介しているのだが、トランプの数や記号だけでなく、絵柄を覚えて暗唱する訓練を行うと、普通は9枚が限界なのだが9枚以上言えるようになるのだという。これは右脳で絵として覚えるようになったからであり絵を処理しているのが右脳かどうかはわからないが、評価できるという一点では他の本より信頼できる実践だろう。

6.休憩は何度も短時間で取る

仕事や学習は3時間作業をして1時間休憩するよりも、30分ごとに10分づつ休憩を入れた方がはかどるというのだ。
というのも集中力と言うのは二次関数状に増減し、授業やセミナーでも時間の終わりとはじめの方が高い。

7.サジェストぺディア

サジェストぺディアという記憶術があるらしい。ソファに座ってクラシックなどを聴きリラックスしだ状態で緩急のある話を聞くと頭に残るというのだ。サジェストぺディア学会では新しい教授法などと言っているらしいが50年も前からある記憶術だ。
これを学校で行えというのだが、正直無理だろう。
http://www.modern.tsukuba.ac.jp/~ushiro/MA/Report/2004/050117KikuchiP.htmlより

この教授法が効果的に行われるために不可欠なものは、1.快適な学習環境、感じの良い教室の雰囲気 2.教材の内容を実演でき、生徒によいモチベーションを与えられる活動的な教師の存在 3.生徒のリラックス である。サジェストぺディアのすべての要素を1時間たらずの普通の授業で用いることは不可能であるので、生徒と教科に応じて変える必要性がある。コンサートセッションはロザノフメソッドの場合、3つのパートにわかれているが、アメリカでは必ずしも3つには分けていない。サジェストぺディアのすべての要素を1時間たらずの普通の授業で用いることは不可能であるので、生徒と教科に応じて変える必要性がある。コンサートセッションはロザノフメソッドの場合、3つのパートにわかれているが、アメリカでは必ずしも3つには分けていない。サジェストぺディアのすべての要素を1時間たらずの普通の授業で用いることは不可能であるので、生徒と教科に応じて変える必要性がある。ロザノフメソッドをアメリカへ適合させるためには、未だに多くの課題が残されている。より多くのデーターが研究者によって提示されれば、ロザノフのメソッドを発展させることができるであろう。

だそうだ。
よくよく考えてみればリラックスした状態で何もすることがないときに聞いた話を忘れないのは当たり前だ。
教育現場においては、ソファもなければ一つのことを考えていられる時間もない。受験などの競争原理に間違えると恥ずかしいという価値観の蔓延。
学習者たちのかばんの中にはケータイが入っており、家に帰ればゲームやテレビが待っており、それだけに集中できるリラックスした環境など到底無理だ。

というわけで手に取ってみれば確実に話題にはなる一冊。他にも速読しろだの栄養食品をとれだの宣伝じみたことが書いてあったのは気に食わなかったが、中学生でも記憶の基本概念くらいは理解できるようになる。ただし何のために記憶したいのかと言うのを常日頃から考えておくことだ。

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